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阪神OBが語る“契約更改”舞台ウラ「この金額でハンコを押せません」「5~6度も…200万円アップした選手も」…恒例の“お家騒動”2大原因もズバリ
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江本孟紀Takenori Emoto
photograph byJIJI PRESS
posted2025/07/21 06:02
阪神時代の江本孟紀。活躍したシーズンの契約更改が強く印象に残っているという
ひとつは、「シーズン途中に早々とオーナーが監督の続投宣言をしてしまうこと」だ。
たとえば、オールスター前までの前半戦を2位、もしくは3位で通過したとする。Aクラスで折り返すのだから、チームとしては健闘したという評価になる。これはまだいい。そこで、「前半戦をAクラスで頑張ってくれたのだから、後半もボチボチやってくれるだろう」という期待値を高く設定し、「監督続投」をオーナーみずからメディアを通じて高らかに宣言する。2021年は9月18日に明かしている。
もう1つの原因は「選手の緊張感がゆるむ」
すると、これを受けてチーム内で起きてしまうのが、二つ目の原因の「選手たちの緊張感がゆるんでしまう」ことにつながっていく。監督が続投するということは一軍の首脳陣、さらには二軍監督を含めた二軍の首脳陣も大幅に刷新されるようなことは、ほぼない。翌シーズンもユニホームを着続けられるか微妙なボーダーライン上の選手はいるにしても、それ以外の大方の選手たちは、
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「来年も阪神のユニホームを着て現役を続けることができる」
という安心感から、自分を追い込むほどの練習をしなくなる(もっとも、それ以前から自分を追い込む練習をしている選手がどれだけいるのかは疑問だが)。
やがて体のキレが徐々になくなり、投手は打たれ、打者は凡打の山を築いていく。気づけば、それまで維持していた順位よりさらに落ちていき、Aクラスをキープどころか、あっけなくBクラスまで順位を落としてしまう―― という負のスパイラルが続くのだ。
悪いのは現場を預かる首脳陣ではなく、早々と監督の続投宣言をするオーナーと、その声に安心してゆるんでしまう選手たちになる。ただし、この流れは阪神が阪神であり続けるかぎり永遠に断ち切ることのない流れになるはずだと、私は冷静に見ている。
ファンも“メカニズム”を冷静に分析する必要が
そうなると、心配なのは「この先、監督のなり手になる人材を探すのは難しいのではないか」ということだ。就任したときには阪神ファンから大きな声援を浴び、退任する間際には一転してボロカスに言われる。過去をたどれば、ブレイザーや安藤統男さんのようにカミソリやゴキブリの死骸が入った手紙が自宅に届くことを考えれば、「いまの安定した生活を手放して監督をやる気はない」と考える阪神OBが大勢いたって不思議な話ではない。
仮に成績が落ちて失脚するとなったら、「次は誰が監督になるの?」ということになりかねない。火中の栗を拾うのはリスクがいるが、大火事のように燃え広がった炎のなかの栗を拾う者など誰もいないはずだ。
だからこそ、あえて言いたいのだが、いっぺん阪神ファンは「お家騒動が起こるメカニズム」を冷静に分析してみる必要があるのではないだろうか。〈つづく〉

