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「監督に適してないんじゃ」阪神電撃トレードで見た天才型・吉田義男vs思考派・野村克也、指揮官として決定的な差とは…江本孟紀がズバリ
posted2025/07/20 11:01
南海から阪神に移籍した江本孟紀。リーグが変わって驚いたこととは
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江本孟紀Takenori Emoto
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Kyodo News
ブロックサイン? エモ、そんなのウチにないよ
南海時代、バッテリー間のサインは捕手である野村克也さんが出していた。それだけに、捕手はほかの野手に比べて余計に神経を使うとされているのだが、こと阪神にかぎっては、そうした決めごとがまったくなかった。それどころか、「人差し指1本出したらストレート、人差し指と中指の2本出したらカーブ、指を全部振ればフォークを投げる」という、じつに単調な決め方だった。
あまりに単純な配球のサインの出し方に、私は田淵幸一さんに聞いてみたことがある。
「ブロックサインは、どうなっているんですか?」
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すると、田淵さんは「なんだ、それ?」というような表情を浮かべながら、
「エモ、そんなのウチにはないよ。人差し指を1本立てたらストレート、人差し指と中指の2本立てたらカーブ、薬指まで3本立てたらスライダーという感じで出しているんだよ。何回も出したらピッチャーが投げにくいって言うしね」
と。だから、1回しか出さない単純なサインだった。それを聞いた私はあっけに取られてしまった。あまりにも単純なサインであるにもかかわらず、それでも、ある程度は勝っていたからだ。
南海から一緒に阪神に移籍した、「ノムラ・シンキング・ベースボール」の島野育夫さんにそのことを話すと、「おい、阪神は南海より強いんじゃないか」と驚くことしきりだった。これは何も皮肉で言っているのではない。本気でそう考えていたのだ。
天才ゆえ何も考えていないように見えた吉田さん
なぜ、吉田さんはこうした野球をしていたのか。何も知らない人からすれば、「な~んにも考えずに野球をやっているなんて、アホちゃうか」と思うかもしれないが、真相を明かすと、あの小さな体だったが、吉田さんは「天才型のプレイヤー」だったからである。

