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「藤井(聡太)戦だけです。こんなことは」今が“最高レーティング”永瀬拓矢、名人・藤井への本音…なぜ負けても「強くなっている実感が」あるか
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by日本将棋連盟
posted2025/06/22 11:00
藤井聡太と永瀬拓矢の名人戦第5局
幸い、名人戦は記録係も和服のため、朝に着付けのスタッフが来る。「朝に着せてもらってから、最後まで何とか持たせています」と永瀬は語った。
この将棋は2日目の午前中に千日手になった。先手の永瀬は2八から4八に、後手の藤井は2一から8一に互いに飛車を動かし合い、同一局面が4回発生したことで千日手が成立。第4局に次いで2回目だ。名人戦で千日手が2回発生したのは、伝説の中原誠―加藤一二三戦以来で、実に43年ぶりのことだった。
先手の最初の飛車の動きが封じ手だったが、永瀬は初日の段階で千日手だと踏んでいたのだろうか。
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「いえいえ、後手は△2四歩と突いてくると思っていましたから。▲3五歩△同歩▲4六金で、こちらの玉が薄いのでわずかに自信がありませんでしたね。そうしたら飛車を8筋に回られて、読んでいなかったんですけど、これは千日手かな、と」
せっかくの先手番が後手になってしまったが。
「後手番の作戦が用意できているかどうかなんですけど、一応やりたいことはあったのでよかったです。5月22日に王位戦の挑戦権を獲得して、さらに藤井さんのことを意識するようになっていたので」
こんなことが起こるのは藤井戦だけですけどね
永瀬と言えば昔は千日手王として知られていたが、近年は違う。なぜこの名人戦では2度も出現したのだろうか。
「藤井さんと私はお互いに先手でやる作戦がある程度決まっているので、後手が作戦を立てやすい。だからいい対策を用いられると50-50のイーブンになってしまいます。50-50の評価値は千日手ですから。まあ、こんなことが起こるのは藤井戦だけですけどね」
永瀬は最後の部分に力を込めた。〈つづく〉

