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藤井聡太22歳「AI並み」ピンチ脱出の一方で…師匠・米長邦雄の“形見”に涙し、継承した「和服と泥沼流」杉本和陽33歳もスゴかった

posted2025/06/13 06:00

 
藤井聡太22歳「AI並み」ピンチ脱出の一方で…師匠・米長邦雄の“形見”に涙し、継承した「和服と泥沼流」杉本和陽33歳もスゴかった<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

棋聖戦第1局の藤井聡太七冠。同タイトル6連覇に向けて快調なスタートを切った

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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 藤井聡太棋聖(22=竜王・名人・王位・王座・棋王・王将を合わせて七冠)に杉本和陽(かずお)六段(33)が挑戦しているヒューリック杯第96期棋聖戦五番勝負。その第1局は6月3日に栃木県日光市「日光金谷ホテル」で行われた。タイトル戦に初登場した杉本六段は、絶対王者の藤井棋聖との勝負について、「畏敬の念を持っていますが、絶対に勝てない相手だとは思っていません」と語った。その言葉どおりに得意の振り飛車を駆使して奮闘し、敗れたが藤井を土俵際まで追い詰めた。第1局の戦いの模様、杉本の師匠の米長邦雄永世棋聖とのエピソードなどについて田丸昇九段が解説する。〈棋士の肩書はいずれも当時〉

「泥沼流」を受け継いで戦うつもりです

 杉本六段は棋聖戦の挑戦者に決まった4月25日から1カ月あまり、2着の和服を買ったりスーツを新調するなど、タイトル戦に向けていろいろな準備に追われたという。5月下旬には、藤井棋聖との対局の対策を立てる日々を送れるようになった。自身の戦い方や藤井将棋について、次のように語った。

「振り飛車の良さは、自分のやりたい形を指せるところにあります。力戦から泥臭い将棋に持ち込むのが身上です。師匠の米長は《泥沼流》を駆使してタイトル戦で活躍しました。私もそれを受け継いで戦うつもりです。藤井棋聖とは以前に早指し棋戦で2局対戦しました(いずれも杉本の振り飛車で藤井が勝利)。長い持ち時間(棋聖戦は各4時間)で指すのは今回が初めて。読みの量に絶対的な違いがあるので、どう戦うかは大きな課題です。とにかくバランスを崩さずに食らいついていけるかが、勝負のポイントになると思います」

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 杉本は5月の連休明けに師匠の米長永世棋聖の自宅を訪れた。明子夫人に棋聖戦挑戦を報告すると、大変に喜んでくれたという。そして幸運にも和服一式を贈られた。紺を基調とした大島紬の夏物で、米長が棋聖戦か王位戦のタイトル戦で着用した。それを試着してみるとぴったりだった。

米長の死から数年…駒を渡され、涙をぽろぽろと

 米長は2012年12月11日に前立腺ガンの病状が悪化して緊急入院した。ただ入院中は意外と元気で、弟子の棋士たちの成績を案じたり、将棋連盟の会長として改革案を述べたりした。明子夫人の話によると、一門の棋士にこう頼んだという。

「杉本を何とか四段にしてくれ」

 最後の弟子の杉本は三段で、なかなか棋士になれず、師匠として気がかりだったようだ。

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