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「藤井(聡太)戦だけです。こんなことは」今が“最高レーティング”永瀬拓矢、名人・藤井への本音…なぜ負けても「強くなっている実感が」あるか 

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大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

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photograph by日本将棋連盟

posted2025/06/22 11:00

「藤井(聡太)戦だけです。こんなことは」今が“最高レーティング”永瀬拓矢、名人・藤井への本音…なぜ負けても「強くなっている実感が」あるか<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

藤井聡太と永瀬拓矢の名人戦第5局

 今期の名人戦は開幕から3連敗と追い込まれたが、第4局で待望の1勝を返した。「藤井さんとできるだけたくさん指したい」という永瀬にとってこの1勝は大きい。この勢いで第5局を制すれば第6局につながるし、レーティングも初めて2000点の大台に乗る。

 気がつくと雑談で15分を超えていた。そろそろ帰ろうとなり、永瀬は玄関のカウンターに向かった。そこにはファンからのプレゼントが届いており、「永瀬先生」とポストイットが張られた大きな紙袋が複数あった 。

「ありがたいですね」

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 永瀬は顔をほころばせたが、「今日はちょっと疲れていて、両手で持って帰るのはしんどいです。申し訳ないけど次回にします」と言うと、手持ちのカバンだけで帰宅した。4月と5月は公式戦が8局ずつ。名人戦の移動日も含めると超過密スケジュールになる。タフな永瀬もさすがに疲労の蓄積があるのかなと思った。

「勝利の紅白うな重」に、おっと思ったワケ

 5月29日。名人戦第5局の現地取材は2日目からだったので、初日は自宅で日本将棋連盟のモバイル中継とABEMAの生放送で観戦していた。

 先手番の永瀬は予想通りに角換わりを採用した。「対藤井戦では私はやることは決まっていますので」と永瀬は以前から語っている。対して藤井の作戦だが、腰掛け銀にせずに右玉に構えた。今年の王将戦第3局でも用いていたことを思い出す。お互いに玉を固めた後、先手は飛車、後手は金を動かして手待ちをする。

 48手目の局面で昼食休憩に入った。食事の注文を見て、おっと思った。藤井は「古河名物 甘露煮物語」、永瀬は「勝利の紅白うな重」だった。以前、永瀬から「タイトル戦でも将棋会館の対局でも、ウナギを頼む棋士の勝率が悪い気がするんです。統計は取っていなくて肌感覚なんですけど」と聞いていたからだ。

 なのになぜ。しかも2日目の昼も永瀬はウナギを頼んでいた。

 後日に尋ねると、「以前は勝率が高そうな食事を選んでいましたけど、今はそれほど勝敗に執着していません。勝ちたいと思っても勝てるわけではないので」と答えた。そして「あ」と声をあげると、「カレーうどんにも興味があったんです。でもカレーが和服に飛んだらひどいからなあ」と苦笑した。藤井は2日目の昼食に頼んでいたが、「藤井さんは自分で和服の着付けができるから、食事のときに脱げるんですよ。私は着たらそのままなので、指し切る(和服に飛ばさずに完食する)自信がなかった。ハハハ」と笑った。

「和服の着付けができなくなった」

 3月に決着した王将戦七番勝負の際は、苦手な和服の着付けを自力で行っていたが、名人戦第1局で「急に手が動かなくなって」できなくなったのだという。

【次ページ】 こんなことが起こるのは藤井戦だけですけどね

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