- #1
- #2
ボクシングPRESSBACK NUMBER
中谷潤人の「狂気じみた、戦士的な一面が見えた」同門の元世界王者・伊藤雅雪が戦慄した“作戦遂行能力”「ダーティー気味なこともマシンのように…」
text by

杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/06/12 17:02
同じルディ・エルナンデスの指導を受けた元王者・伊藤雅雪が西田戦で見た、「本当の潤人」とはいったい?
肩や腕を打つのはルディのボクシング
中谷本人は、ある程度の被弾は想定内だったようだ。それより、強いパンチを相手の体に打ち込むことを意識していた。3ラウンドの終わりには、西田の異変に気づき、痛めている可能性のある右肩を非情に攻めたという。
5ラウンドに偶然のバッティングで相手が右目を腫らしたときも、ガードの上から容赦なく叩いた。6ラウンド終了時に西田サイドから右肩の脱臼で棄権の申し出がアナウンスされたとき、伊藤の頭にはその原因がすぐ浮かんだ。
「肩へのパンチか、クリンチワークか、どちらかで痛めたんだろうな、と。試合中、意図的に肩を狙っているのは分からなかったですけど、あれがルディのボクシング。スパーのときからガードを固められても、『肩や腕を打て』と言っています。これはルールの範囲内。それをすると、徐々に相手の手が垂れてくるんです。
ADVERTISEMENT
ボディ打ちも、ときにあばらを狙わせます。西田戦でも、リング下から指示が飛んでいました。少し強引に見えたクリンチワークは、いつも練習しているものですよ」
強引なクリンチワークも中谷の技術の一つ
相手を振り回すようにほどく方法も、腕を引き抜くような術も、アメリカでは当たり前。スパーリングでクリンチがあると、すぐに止めて両者を引き離す日本とは慣習が違うという。
「あっちでは全然、止めないんです。だから、ルディはクリンチをほどく練習もかなりやらせています。あれも技術の一つ。潤人の体には、染み込んでいるものです。“いい子ちゃん”過ぎてしまうと、ダーティー気味なことは気が引けてしまうけど、潤人は戦士なので遂行してしまう。マシンのような感じ。ここも、最初に話した狂気を感じるところです」
非情かもしれないが、勝負に徹する強さをより印象づけた。圧倒的な存在感を誇示してバンタム級を卒業し、次に向かうのは井上尚弥が待つスーパーバンタム級。世界が注目する話題のビッグマッチは正式決定こそしていないが、来年5月開催が既定路線のように各メディアで報じられている。1年後の決戦までに、ここからどのように過ごしていくのか。伊藤はプロモーターの目線で、モンスターへ挑む道筋を示してくれた。

