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藤井聡太22歳「AI並み」ピンチ脱出の一方で…師匠・米長邦雄の“形見”に涙し、継承した「和服と泥沼流」杉本和陽33歳もスゴかった
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田丸昇Noboru Tamaru
photograph by日本将棋連盟
posted2025/06/13 06:00
棋聖戦第1局の藤井聡太七冠。同タイトル6連覇に向けて快調なスタートを切った
米長は2012年12月18日に69歳で亡くなった。それから数年後、四段に昇段した杉本が米長家に挨拶に伺うと、米長が生前に用意したお祝いの駒を明子夫人から渡された。杉本は感きわまって涙をぼろぼろと流した。
棋聖戦第1局で藤井棋聖と杉本六段は、東京・浅草駅から東武特急「スペーシアX」の先頭車両に乗車して栃木・東武日光駅に到着。対局場に入る前に日光東照宮を訪れ、拝殿で必勝祈願の祈祷を受けた。そして陽明門を背に記念撮影した。
日光金谷ホテルでの前夜祭で、両対局者は次のように挨拶した。
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藤井「挑戦者の杉本六段との対局は、久しぶりの振り飛車党とのタイトル戦です。私にとって新鮮なシリーズになると思っています。今日は東武特急《スペーシアX》の先頭車両に乗車して、前面展望から見える移り変わる景色を楽しみました」
杉本「先ほどの検分で藤井棋聖と盤を挟む瞬間があり、直接の雰囲気を感じ取りました。明日は自分の力を精一杯出して、全力でぶつかりたいと思っています。また、師匠の米長からいただいた和服を着用する予定で、師匠のパワーを少しでも感じたい」
振り飛車が得意の杉本が選んだ「トーチカ」
棋聖戦第1局では恒例の「振り駒」が行われ、杉本六段の先手番に決まった。
振り飛車を得意にしている杉本は三間飛車に振った。四間飛車と同じく採用率が高い。居飛車側の藤井棋聖は△1一玉と「穴熊」の堅陣に囲った。杉本も穴熊に玉を囲う実戦例が多いが、本局では▲2九玉と「トーチカ」と呼ばれる囲いに収めた。
杉本は初めてのタイトル戦の対局で、なかなか落ち着いた様子に見えた。師匠から譲り受けた紺の着物と袴は、長身によく似合っていた。席を時おり立ったのは、対局室を出て考える普段からの行いだという。盤の前にいると思わず指してしまうことも防いでいる。一方の藤井は泰然とした姿である。
藤井将棋、またも土壇場で驚異的な強さ
杉本は飛車を5筋に転じると、1筋と3筋の歩を突いて仕掛けた。藤井は応戦して玉頭戦の展開となった。杉本は守りの金を四段目に進め、敵陣に圧力をかけた。ある棋士は「杉本さんらしい泥臭い一手」と評した。


