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「結婚しないなら別れて」“中日クビ危機”山崎武司が覚醒した現妻の最後通告…「ユニホーム着させねーぞ!」星野監督は20キロ減量令
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間淳Jun Aida
photograph byJIJI PRESS
posted2025/06/08 11:02
1996年の山崎武司。94年頃は戦力外もちらついていたが、結婚を機に覚醒を果たした
2カ月で22キロも体重を落とせば、見た目は別人のように変わる。
山崎は減量期間中にほとんど誰とも会っていなかったため、チームメートや球団関係者からは病気になったと勘違いされた。
体は軽かった。ダッシュも守備練習も今までのキャンプで経験がないほど楽に感じた。体の切れが増したからなのか、心配していた打球の飛距離も落ちなかった。ただ、バットを振っていて違和感が消えない。一体なぜなのか――。
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「フリー打撃をしていても、少し詰まったり振り遅れたりして、自分の感覚と打球にズレがありました。しっくりスイングできないので、ダイエットした影響かなと思っていました」
しかし原因は減量ではなく、思わぬところにあった。
えっ、バットが1インチ長い?
春季キャンプが始まって2週間が過ぎた頃だった。山崎は「誰かのバットを借りてみようかな」と、無造作に立てかけてあった他の選手のバットと自分のバットを何気なく見比べた。すると、衝撃の事実に気付いた。メーカーに注文していた長さよりもバットが1インチ長かったのだ。
山崎が本来使うはずだったバットは34インチで、メーカーから届いたバットは35インチ。1インチ(2.54センチ)の違いは、プロ野球選手にとっては全く違うバットとも言える。山崎が語る。
「気付かなかった自分も自分だけど、1インチは致命的な違い。自分のイメージよりも長いバットで打っているので詰まるのは当たり前ですよね」
メーカーは34インチのバットにつくり直すつもりだった。しかし、山崎は35インチを使い続けた。たとえ同じ35インチを振ったとしても、34インチだと思ってスイングする場合と、最初から35インチと認識している場合では感覚が違うという。バットが長くなれば、内角は詰まりやすくなる。一方、外角や低めにバットが届く。山崎はメリットとデメリットを比較した上で、35インチを選んだ。
「すでにキャンプで2週間以上、35インチを使い続けていましたし、当時の自分には長いバットの方がプラスに働くと判断しました。自分のように実績のない打者に対して、投手は外角で勝負してきます。それなら、外の球を捉えやすい35インチの方が安打を増やせると考えました」
減量は成功…しかし開幕直前に試練が
35インチのバットで練習を重ね、山崎は感覚を掴んできた。オープン戦でも結果を残し、開幕スタメンやレギュラー定着が見えてきた。星野監督に命じられた過酷な減量は成功だった。だが、開幕が数週間後に迫った時期に、試練が訪れる。〈つづく〉

