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「長嶋さんは、あのときがいちばん苦しかったんじゃないかな」長嶋茂雄に松井秀喜が“現役引退”の電話…その時、何を言ったか?「巨人広報が泣いた日」
text by

中村計Kei Nakamura
photograph byJIJI PRESS
posted2025/06/05 06:01

松井が現役引退時、20年間で最も印象深いシーンに挙げた「長嶋監督と2人で素振りをした時間」。その真意とは
「自分で獲った選手って、そういう風になるもんなんだよ。誰よりも気になるだけに、みんなが見ているところでは遠慮してしまう。結果を出しても喜びはあんまり顔に出せない。俺が今、白崎に対してそうだから。他の選手に特別扱いしてるって思われたくないじゃない。でも、長嶋さんは陰ですごい松井に気は遣ってたよ。俺とか人をうまく使いながらね」
香坂(英典/当時広報)もことあるたびに、長嶋に「大丈夫か、あいつ?」と聞かれた口だ。
「松井は元気に『おはようございます!』って言えるタイプじゃない。言葉少なで、ぶっきらぼう。監督へのあいさつの仕方も最初の頃は冷や冷やさせられました。そういう意味では巨人の中では劣等生と言っていい。そのあたりも心配だったんだと思います」
長嶋が松井に託したもの
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そこまで長嶋が松井に執心していた理由を、小俣(進/長嶋の当時専属広報)は松井より1つ年下の高橋由伸を引き合いに出してこう忖度する。
「長嶋さんは、由伸が入団したときから『あいつは天才だ』って言ってましたから。触っちゃいけない、と。でも松井は不器用だからね。心配でしょうがなかったんじゃないかな」
そんな松井に長嶋が託したもの。それは何よりも飛距離だったと内田は言う。
「清原はポイントを中に入れて右中間へ、由伸は広角に打ち分けるのが持ち味だった。松井にそれを求めても無理。でも彼はケタ外れのパワーがある。『グシャ』っていう詰まったような音であれだけ飛ばせるのは彼しか見たことがない。だから長嶋さんも清原や由伸と違って常に引っ張ることを意識させていた」