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「フェリちゃんは本当にありがたい」広島カープ・新井貴浩監督も絶賛するドミニカ人フェリシアーノの「通訳」を超えた仕事「選手の教育係も…」
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前原淳Jun Maehara
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2025/05/26 17:00
広島カープ・新井貴浩監督、来日初勝利のドミニカ人投手ドミンゲスと共にポーズをとるフェリシアーノ通訳(右)
「私はカープに二度助けてもらった。本当に感謝している。私がカープのためにできることはやりたい。いつも、そう思っている」
当時まだ31歳。現役への未練を断ち切って、自身がアカデミーで学び、日本で得た経験をすべて後進に注いだ。そして19年、アカデミー出身選手の輩出が増えてきたタイミングで、通訳として来日するようになった。バティスタやメヒア、フランスアにコルニエルと教え子たちをサポートしてきた。
今年はアカデミー出身の支配下登録選手はいないが、4人の外国人選手のうち3人が同じドミニカ共和国出身選手だ。彼らは米国での生活も長く、英語も話せるが、母国語での会話が精神的な支えとなるという球団の考えから、フェリシアーノがサポートを任された。
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「日本はアメリカとは違って、細かい野球もする。そこは考え方から変えないといけない。ただ、カープはドミニカ人にとってプレーしやすいチームだと思う。彼らにカープのことを分かってほしい」
日本でのプレー経験を生かした助言
ただコーチらが言った言葉を変換するだけではない。自ら感じたことや思ったことも伝える。選手、コーチ、そして日本でプレーした経験を生かして、彼らへ言葉を紡ぐ。
モンテロはメジャー通算205試合出場で、23年にはロッキーズで2桁11本塁打を記録した実績を持つ。だが、メジャーリーガーだったという、おごりはなく、ひとつひとつの助言に素直に耳を傾ける。
「アメリカと日本では当然、違いはある。フェリはただ同じ言葉で伝えてくるのではなく、分かりやすいサンプルを出しながらアドバイスしてくれる。自分のために言ってくれることはすべて聞きたいし、彼の言うことを聞いているから徐々に適応できているんだと思う」
過去にいた外国人選手や他球団の外国人選手を例に挙げながら説明することで、選手たちの理解を助ける。練習中や試合中は、コーチのような存在。だが、練習や試合が終われば友達や兄弟のような関係に見える。開幕早々に左脇腹の肉離れで戦列を離れたときも、はやる気持ちをフェリシアーノがなだめた。
「焦って復帰して再発した方がいけないから、焦っちゃだめだ。焦らず、じっくり治すことを考えよう」
彼の役割は単なる言語の変換にとどまらない。選手のためにできることはすべてやる。彼らの成功を誰よりも願う気持ちが、言葉や行動に自然と表れている。
試合前には相手投手の映像から球筋や配球をチェックし、選手と打席でのプランを話し合う。また、投手の情報だけでなく、捕手の配球の傾向も含めて情報を伝えている。
「日本の配球の組み立ては8割がキャッチャー。だから末包(昇大)や外国人選手への配球を見ながら、キャッチャーのことも知っておいたほうがいい」
通訳の枠を超えた仕事
打席に立った選手へ、ベンチから声を張り上げて言葉をかける。その姿はもはや「通訳」という枠を超えている。
