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史上唯一の偉業「18歳が初登板でノーヒットノーラン」26歳で引退した“中日の伝説的ルーキー”近藤真市は今…「昔は何も聞けなかった」元番記者が直撃
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森合正範Masanori Moriai
photograph byKazuhito Yamada
posted2025/05/15 11:35
プロ野球史上唯一の偉業「初登板でノーヒットノーラン」を達成した近藤真一(現:真市/当時18歳)
原辰徳との対決で…“ふてぶてしい18歳”の意思表示
7回無死、巨人の代打、鴻野淳基のセカンドゴロを仁村徹がはじいてエラーとなり、出塁。3番篠塚利夫を打ち取った後、4番原辰徳を迎えた。
18歳、初登板の高卒ルーキーが、33歳のベテラン捕手、大石のサインにすべて首を振った。ふてぶてしい。だけど、明確な意思表示だった。ストレートの要求に対し、全球カーブで勝負。近藤のカーブは球速120キロ台と100キロ台、それに曲がり方が縦と横の計4種類あった。大石からのサインはカーブの1種類だけ。近藤の組み立てで緩急と変化を使い分け、最後は空振り三振に斬った。
原への投球は近藤のベストピッチだった。
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終盤になると、疲労が溜まりへばってきた。5日前、二軍の南海戦で完封していたからではない。一軍のマウンドは緊張感、独特の雰囲気、巨人打線の迫力、何もかもがこれまで経験してきたものとは違った。だが、気迫だけは持ち続け、打者へ向かっていく。
「狙え! 狙え!」。9回。中日ベンチからシュプレヒコールが起きた。マウンドに上がると、ナゴヤ球場の3万5000人の観客が異様な雰囲気になっている。四方から近藤に向かって、歓声の波が押し寄せてくるようだった。その歓声は「ウワー」でも「ウオー」でもなく、「ドーン」という大きな音に聞こえた。
9回2死。打者は篠塚。最後はボールとも思える際どいコースへのカーブ。球場のただならぬ雰囲気が主審に「ストライク」と言わせた。見逃し三振で試合が終わった。
高卒1年目が初登板初先発で無安打無得点試合。13三振を奪い、許した走者は山倉和博を四球で2度、二ゴロ失策の鴻野だけで、投球数は116。大石が駆け寄ってくる。嬉しい気持ちと、終わった、という安堵感が全身を包んだ。
監督の星野仙一とは握手を交わしただけ。試合前も試合後も何も言われなかった。
快挙から一夜明けると、寮に届いた新聞は全紙1面を飾っていた。
近藤は囲まれた記者に高揚と興奮で「寝ていません」と答えた。しかし、実は爆睡していた。
「おまえの部屋からすごいいびきが聞こえたぞ」
寮で隣の部屋の山本昌広からそう言われるほどだった。
<続く>

