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ボクシングPRESSBACK NUMBER
井上尚弥のダウン「ビックリしました」その後、カギになった“あるパンチ”とは?「カルデナスの顔が真っ赤に…」怪物と最も拳を交えた男が解説
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森合正範Masanori Moriai
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/05/09 17:29
5月4日のカルデナス戦でダウンを奪われるも、8回TKO勝利となった井上尚弥
「カルデナス選手の顔が真っ赤になって…」
少し重心を落として、上体を屈ませてから、角度をつけて上に向かって放つようなジャブ。前回のキム・イェジュン戦でも繰り出していた左ジャブだった。
――あのジャブはどのような効果がありますか。
「相手からしたら、見づらいです。井上選手の踏み込みは深いので『えっ、ここから届くの?』みたいな、すごく遠くからもらっている気になるんです。それに井上選手のジャブはダメージングブローなんで、ジャブで相手をストップさせたり、ダメージを与えたり。一見地味に見えますが、それを続けていって相手を崩して、4ラウンドくらいから削っていきましたよね。試合後、カルデナス選手の顔も真っ赤になっていました」
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――実際にスパーリングで体感してみて、井上選手のジャブの特徴は。
「いろんな角度から出ますし、ジャブと言っているけど、他の人のジャブと違って、まあとにかく強いです。パンチ力があるという強さ。それとタイミングをずらして打ってくる。映像で見ていると、普通に打っているジャブに見える。でも向き合っていると、打ってこないよな、というタイミングで打ってくるんです。なので当たりますよね」
――それは他の選手では感じないタイミングなんでしょうか。
「以前、真正ジムで、長谷川穂積さんと軽く当てるマス・ボクシングに毛が生えたようなスパーをしたことがありました。こっちは集中しているのに、面白いようにポーンとパンチをもらう。もらってから『あっ、いまパンチを打たれた』と気づくんです。後で話を聞かせてもらったら『君が打たないと思っているタイミングとか、君が息を吸ったタイミングで打つんだ』って。すると反応ができない。井上選手もそのタイミングで打っていると思います」
井上のパンチはなぜ“速い”のか?
――体感しないとわからないことです……。
「画面越しでは何気なく打っているジャブにしか見えないですけど、ボクシングは間の取り合いですから。長谷川さんと井上選手はタイプが違いますけど、そこは同じようなものを感じました。タイミングのズレでいえば、井上選手の場合、コンビネーションで来るときにもすごく感じるんです」
――どういう感覚なのでしょうか。
「バッと入って、バン・バンと連打を打つじゃないですか。まず、そのバッと入ってくるタイミングがすごくわかりづらい。距離をつめてくる踏み込みのタイミングがわからないんです。バン・バンという連打のタイミングも、ここで打ってくるんだ、という感じです」
――これも、他の選手とは違うんですね。
「みんな井上選手と試合すると『スピードがすごい速い』って言うじゃないですか。それは実際にめちゃくちゃ速いのもあるんですけど、それプラス、自分が意識していないときに、バン・バン・バンってくるからすごく速く感じるんです。こちらが意識していないタイミング、意識の外からのパンチって言うんでしょうか。これも映像で見ているぶんには、乱暴な言い方をすると普通のワンツー、普通の連打にしか見えないんですけどね」

