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星野仙一が強烈ビンタ「明日から二軍へ行け」フォローなしの非情宣告…「立浪和義は殴られてない。うまいもん」元中日・上原晃が語る“本当の星野監督”
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松永多佳倫Takarin Matsunaga
photograph byKazuhito Yamada
posted2025/05/04 11:05
1988年に監督就任2年目で中日を優勝に導いた“闘将”星野仙一。上原晃も鉄拳制裁を受けたことがあるという
不意打ちで飛んできた張り手「明日から二軍へ行け」
上原が殴られたなかで「印象に残っている」と明かしてくれたのが、プロ3年目の出来事だった。先発してゲームを壊して負けてしまった試合後、いつものようにミーティングルームに招集がかかった。上原は責任を感じ、あえて一番前の席につく。
選手たちが押し黙って席についているところに星野が現れた。怒りでワナワナ震えているようにも見えた。静かな口調で今日の敗因を分析し、投手陣、野手陣ともに苦言を投げつける。激昂しているようには見えないところが、余計に恐ろしさを感じさせる。50分ほどの長いミーティングが終わり、緊張した面持ちで座っていた上原が立ち上がった瞬間、部屋に衝撃音が響き渡る。真正面にいた星野の張り手が飛んできたのだ。不意打ちを食らった上原は一瞬何が起きたのかわからず、ジンジンとした痛みだけが頬に残る。「明日から二軍へ行け」と言い放って、星野は部屋から出ていった。
星野が鉄拳制裁を振るうのは期待の表れだとも言われている。「もうお前なんて二度と使わん」と殴っておきながら翌日の試合でスタメン起用するなど、情に厚く、飴と鞭を上手く使い分ける指揮官だったという証言も多い。だが、星野に不意打ちの張り手を食らった上原は、ミーティングでの通告通り翌日から二軍に落とされたのだった。
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「殴った後に試合に起用する手法はたしかにありました。僕にはなかったけどね。今だったら絶対やっちゃいけない指導ですが、その頃は今と違いますから。それも信頼関係があるからできることであって、だからみんな星野さんのことを悪く言わないんじゃないですか。愛の鞭的な意味で殴られただけで、期待している選手に対しての指導のひとつだったとは思います。あの厳しさは、星野さんの凄いところではありますよね」
淡々と星野との思い出を振り返る上原の口調に、怒りや失望感は含まれていなかった。とはいえ、選手と監督の関係を超えた敬愛の念を読み取ることができなかったのも、また事実だった。
<第4回に続く>

