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「こ、この飛車…何なの?」藤井聡太の100手目に棋士が騒然「こういうの、大好きだもんね」佐々木勇気は熱心に…“TVに映らない”名人戦舞台裏
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千田純生JUNSEI CHIDA
photograph byNumberWeb
posted2025/04/29 11:06

名人戦第1局を先勝した藤井聡太名人。永瀬拓矢九段相手に見せた戦いぶりは、棋士も衝撃を受けていたようだ
2日目の取材前、配信映像で確認したのは立会人の島朗九段、副立会人の近藤誠也八段と佐々木勇気八段(おふたりとも今年度のA級棋士!)、大盤解説会を担当する高見泰地七段、矢内理絵子女流五段といったところでした。ただこの日だけで、前述した棋士だけでなく「教授」こと勝又清和七段に佐藤紳哉七段、伊藤真吾六段らが対局場のモニターと将棋盤をにらめっこしながら検討していました。さらには前日のABEMA中継で聞き手を務めていた竹部さゆり女流四段や野原未蘭女流二段の姿も。
「特に椿山荘は東京開催ということもあってらしいんですが、タイトル戦は僕らが想像する以上に多くの棋士が学びに来るそうです」
佐々木勇気八段の”しゃべり続ける検討”もスゴい
編集担当さんはこう話していました。思い出したのは、前夜祭での永瀬九段が語ったエピソードです。
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「第73期名人戦第1局では羽生先生と行方先生の対局を1日研究していました。感想戦では、対局室で拝見したのですが、今回対局室に入るのは2度目で、その時は対局者ではなく勉強しに来たんですが、今回は対局者として臨みますので重さが違うなと思います」
名人戦の雰囲気を直に味わった10年後――棋士として誰もが一度は体感したい大舞台へ。永瀬九段の語った思いこそが棋界最古のタイトル戦「名人戦」が持つ格式なのだろうな、と感じました。
「永瀬先生、そのあとにユーモアを交えて“その時、勇気八段と一緒にいたんですけど”って言ってましたよね(笑)」
佐々木勇気八段といえば、検討室で対局について思考する姿が、ひときわ熱心だなとも感じました。たとえば90手目に指した△7七銀について、将棋連盟ライブ中継アプリを見返すと〈藤井は直線的な順で斬り込む。佐々木勇八段は「こういうの、大好きだもんね」と納得の表情だった〉と記してありましたが、様々な変化手順を超高速で口にしていて、僕の体感だと優に10分以上は喋り続けていた記憶が。
「対局場ではこれを脳内で続けているのか……」
その声のトーンに、トップ棋士の凄まじさをあらためて体感しました。
「こ、この飛車…何なの?」
そんな検討室が「え、ええっ!?」と一気に騒然となったのは、夕食休憩を終えた後の、ちょうど100手目。藤井名人が「△8一飛」を指した瞬間でした。
「こ、この飛車……何なの?」〈つづく〉

