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「全部アドリブですね」“ビッグバン”中谷潤人の衝撃のKO劇は、いかにして生まれたか? 30戦30勝・絶対王者の本音「想定外を想定内にしていく」
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byShigeki Yamamoto
posted2025/04/19 17:14
WBC世界バンタム級王者・中谷潤人(30戦30勝23KO)が、クエジャル戦での衝撃のKO劇を語った
外から見ればクエジャルとの防衛戦は、非の打ちどころのない完璧な勝利であった。1ラウンドからノーモーションの左ストレートを見舞い、相手が出てきた2ラウンドも冷静に対処してパンチを的確に打ち込む。そして3ラウンド終盤に、2度のダウンを奪って終わらせてしまったのだから。
あらためて中谷に試合を振り返ってもらった。
「確かに(3ラウンドの)ダウンシーンはいろんなところにパンチを出してしっかり当てられたのは良かったと思っています。(課題は)それまでの組み立てのところ。思っていた以上に(相手が)頭の位置を動かしてきたので、なかなかうまく当たらないなという感覚でした」
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クエジャルが好戦的にやってくることは想定どおりとしても、意識して動かしてくる頭をなかなか捉えられない。師であるルディ・エルナンデストレーナーからの指示は初回から「思い切り強く打っていけ」。相手の得意とするフックに合わせる練習も積んできた。フックやボディーを当てるイメージでいたが、ストレート系のほうが当たると判断。右ジャブで組み立てつつ、ノーモーションの左を多くした。ただ左回りのクエジャルに対して、自分も左回りを選択したのは当てるためではなかったという。
「(クエジャルが)左回りにきて、自分もそっち側にいくと頭がぶつかってしまいやすい。そうなるとバランスを崩してしまう可能性だってある。当てることもそうなんですけど、どちらかと言うならリスク回避。自分がコントロールする、確実性、組み立てというところを考えました」
当てるも逆に崩れるも、バランスあってのこと。ここを判断基準の肝に据える。
中谷のストロングポイントは相手の出方を見ながら、自分のなかで解をすぐさま弾き出して実行に移してしまうこと。彼から言わせれば不正確の類かもしれないが、多く放っていくストレート系のパンチは明らかにクエジャルを困惑させ、ストレスを与え、ダメージを負わせた。動く頭が気になったのか最初は自分とほぼ同じ身長のクエジャルの顔面を狙い過ぎた感は多少あったにせよ、「思ったよりも上を当てさせてくれないなら」とボディーへの切り替えもできている。
「全部アドリブですね」
流れるような連打を披露した3ラウンドのダウンシーンは、見事の一言に尽きる。勝負どころだと前に出てきたクエジャルに対し、一度ロープまで下がってから“ビッグバンタイム”を発動させた。
左ボディーをめり込ませて押し戻し、さらに右ボディー、左ボディーを追撃。すぐさま腕を折り畳んで放った右フックを浴びせ、相手の左フックにひるむことなく左、右と振ってガラリと空いた腹に左ボディーストレートをグサリと突き刺す。ロープ際に追い込み、勢いのままのワンツーでダウン経験のないクエジャルをキャンバスに座り込ませた。


