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「全部アドリブですね」“ビッグバン”中谷潤人の衝撃のKO劇は、いかにして生まれたか? 30戦30勝・絶対王者の本音「想定外を想定内にしていく」
posted2025/04/19 17:14

WBC世界バンタム級王者・中谷潤人(30戦30勝23KO)が、クエジャル戦での衝撃のKO劇を語った
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Takuya Sugiyama
想定外を想定内にする作業
3月下旬、神奈川・相模原市にあるM.Tジム。
ジム生のいない時間帯にWBC世界バンタム級王者“ビッグバン”中谷潤人は陽気な音楽に合わせながら黙々と、淡々と汗を流していた。
28戦全勝のメキシカン、ダビド・クエジャルから3ラウンドに2度のダウンを奪い、KO勝ちで3度目の防衛を果たした一戦から1カ月。破れた鼓膜も回復し、いつ試合が来ても大丈夫だと思えるほどに動き自体もシャープだ。
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彼のトレーニングを眺めているといつも気づかされることがある。シャドーであっても、サンドバッグであっても目の前にいないはずの「相手」が浮き上がってくる。
シャドーボクシングのためのシャドーボクシングではなく、サンドバッグ打ちのためのサンドバッグ打ちではなく。実戦の想定が決して抜け落ちることはない。その実戦も、レアケースであろうことまで組み込んでいる。
ステップを踏み、上体を柔らかく使いながら拳を振り、どんな姿勢であってもバランスを崩さない。ときにロープを背負ったり、ときに低い姿勢を保ったり。ステップを踏む足の位置、重心の一つひとつを確認する。
サンドバッグ打ちはあちこち動きながら大、中、小のサンドバッグに加えて、壁にくくられたドラムミットまで叩く。まるで何人ものボクサーを相手にしているようだ。苦しい練習に違いないが、どことなく楽しそうでもある。
そんな感想を伝えると中谷は白い歯をこぼして応じた。
「試合が決まっていないので、伸び伸びやっています。いろんなタイプの選手を想定して、いろいろ動ける自分をつくっておきたいので。相手は、逃げたり、向かって来たり、いろんなことをしてくるじゃないですか。どんな状況であっても良いタイミングでパンチが出せるようにしておきたいし、常に自分のバランスを良い状態に保っておきたい。想定外のことを想定内にしていくことが自分のなかで大事なので。
もちろん前回の試合(クエジャル戦)で課題もありました。当てようとしすぎたところは課題。無駄打ちはしたくないので、当てる確率を上げて正確にヒットさせていくところもかなり意識して練習しています」
中谷潤人のストロングポイント
中谷の辞書にある「当てる」は、単に触るだけではその範疇に入らない。しっかりヒットさせているかどうかが基準になる。