「人より不器用なんです。だから…」“フェアリージャンパー”高橋渚（25歳）が走高跳で39年ぶり室内日本最高記録…本人が語った「進化のワケ」 

　一方の醍醐コーチも、そんなコミュニケーションを経る中で高橋の持つ「本当の強さ」も再認識したという。

「とにかくメンタルが強い。アスリートって結構、繊細なんですよ。でも海外に行けば、バーの色が日本と違って屋外の光と同一化して見にくいとか、さっきのマットの厚さの話もそうですけど、国や会場によって器具やタータン、環境条件などのコンディションが全然違うなんてザラなんです」

　そういった状況の違いから、普段の力を発揮できずに終わる選手の逸話は枚挙にいとまがない。一方で高橋はそういった状況でのある種の「開き直り」が上手いのだそうだ。醍醐コーチは続ける。

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「『いろいろ言ってもしょうがない。今日はこれでやるしかないんだから』と切り替えられる強さは群を抜いている気がします」

　例えば、海外勢はウォーミングアップが少ない選手が多いのだという。そんな選手たちを見ているうちに「私もアップが多すぎるのかな？」と惑わされる日本人選手も多いのだそうだ。

　そうして雰囲気に飲まれ、これまでやってきた流れを変に崩してしまう。どこかカッコつけようとしてしまう……とも言えるだろうか。醍醐コーチ自身も元選手の立場からは、「そういう気持ちはすごくよくわかる」と笑う。

環境が変わっても…「肝の据わり方はすごい」

　一方で、高橋に関してはそういったブレが一切ないのだという。

「環境が変わろうが、大会で競う相手が変わろうが、自分だけに集中できるんですよね。毎回、ちゃんと決めたことをキチッとできる。そういう肝の据わり方はすごいと思います」

　そんな醍醐コーチの言葉を裏付けるように、チェコに続いて3月末にはメルボルンでも1m86cmの好記録で2位に食い込んだ。この大会は9月の東京世界陸上に向けた世界ランキングへの付与ポイントが高いクラスの大会でもあり、ここでの上位進出は非常に大きな意味を持つものだった。

　7月に日本選手権を控えるとはいえ、一連の海外大会での好結果もあり世界陸上への出場可能性はかなり高まっている。実際に代表に選ばれれば、実に日本人12年ぶりの世界大会ということになる。しかも近年の世界大会における走高跳の情勢を振り返ると、2022年のオレゴン世界陸上の決勝進出ラインは1m90cm、翌年のブダペスト世界陸上では1m89cm、昨夏のパリ五輪では1m92cmと、いまの高橋の実力であれば十分に決勝進出も狙えるレベルだ。

　ただ、そんな話に水を向けても、当人はどこまでもクールだった。

「世界陸上は挑戦の舞台ですから。まずは屋外でもう一度1m90cm台の記録を跳ぶことですね。結局、1回だけだと再現性がないので。5月にはアジア選手権もありますから、まぐれの一発だと思われないようにしたいです」

　最後まで、浮かれることはなし。

　いま日本で「最も高く跳ぶ」女子選手は、誰よりも地に足がついていた。

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173cmの長身でも、「ひとりだけムキムキ」な筋肉でもなく…走高跳“39年ぶり室内日本新”高橋渚（25歳）は何がスゴい？ コーチも「群を抜いている」