「人より不器用なんです。だから…」“フェアリージャンパー”高橋渚（25歳）が走高跳で39年ぶり室内日本最高記録…本人が語った「進化のワケ」 

　重要なのは地道な積み重ね――となれば、やはり最大の敵はケガということになる。

　特に走高跳は競技特性として、特定の箇所に負担がかかりやすい。それだけに心身のコンディションには細心の注意を払っているという。

「大事なのは『ちょっと気になった』の段階でコミュニケーションをとること。結構、選手って、決まったスケジュールをこなせないのを嫌がる人が多いんですよ。でも、大事なのはその時の体のコンディションであって、不調の状態で練習の強度を上げちゃっても、全然身にならない。それよりは、その時の状態に合わせたことをやったほうがいい」（醍醐コーチ）

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　疲労度の度合いによって練習強度や内容を変えることはもちろん、女子選手に特有な生理の際などにもかなりフレキシブルに対応をするという。

「シンプルにどこかが痛いとかじゃなくて、生理が重いとかだと選手って休みたがらないんです。でも、そういうのも積極的に『1日くらい休んだって変わらないから』って言います。それでもし少し調子が良くなって夕方とかに行けそうなら、『軽めのメニューでやってみようか』という感じで」

練習メニューはコンディションによってフレキシブルに変更するという　©Takuya Sugiyama

「常に競技を第一に考えられるか」

　一見すれば選手想いの臨機応変な対応にも見えるが、だからこそ「選手個人の競技への取り組み方も問われる」と醍醐コーチは言う。

「例えば練習スケジュールが変われば、オフの日程だって変わります。そうなれば、仮にそこにプライベートの予定を入れていれば、飛ぶことだってもちろんある。そういう時に常に競技を第一に考えられるか。小さなことかもしれませんけど、意外とそういう心の強さは要る。渚の場合はそういう時に常に競技を最初に考えることができたからこそ、故障せずここまで成長できたんだと思います」

　オフには予定があるから少々コンディションが悪くても、今日のキツいトレーニングをやってしまおう――そういう考え方も、もちろん選手のモチベーションの持ちようとしては間違いではないのかもしれない。ただ、そこで絞り出し切れなかった日々の数パーセントが、数年の積み重ねを経て、大きな差となるのかもしれない。

©Takuya Sugiyama

　そして、そんな愚直な日々には意外な副産物もあった。

　師弟の間でトレーニングや跳躍における「感覚の相互理解」が進んだのだ。高橋本人はこう語る。

「最初のころはコーチの言葉を聞いて、頭で処理して、それから動きに落とし込んでいた感じがあったんです。でも、最近はコーチのアドバイスに対して『あ、それ私も思いました』というケースが増えてきていて。跳躍でも『いま肩、ガチガチだったよ』『ですよね！』みたいな。そこの“考える”ラグがなくなったおかげで、大会でも一本ごとの跳躍に余裕が出てきている気がします」

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