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「人より不器用なんです。だから…」“フェアリージャンパー”高橋渚(25歳)が走高跳で39年ぶり室内日本最高記録…本人が語った「進化のワケ」
text by

別府響Hibiki Beppu
photograph by(L)JIJI PRESS、(R)Takuya Sugiyama
posted2025/04/12 11:01

2月に日本人としては12年ぶりの1m90cm越えの記録をマークした走高跳の高橋渚(センコー)。覚醒の理由はどこにあったのか
高橋本人もこんな風に苦笑する。
「ベースのフィジカルアップは明らかにありますね。国内の大会で並ぶとひとりだけムキムキなんで(笑)。それがようやく実際の試技に繋がってきたんだと思います」
走高跳という種目では、多くの選手や指導者が自身の中に「理想の跳躍」のイメージ自体はある。ただ、そこまでのプロセスを「具体的に進行できる選手や指導者は多くない気がします」と醍醐コーチは言う。
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「結果としての理想イメージはみんなあるんですよね。でも、その理想につながる体の使い方が、どうすればできるのか。それが一番大事なんですけど、それを教えるのが一番面倒くさい部分でもある。だからこそ本当にコツコツ、地味な積み重ねなんです。ちょっと技術をいじったから急に跳べるようになるわけじゃないんですよ、やっぱり」
驚きの結果や、息をのむ美しい跳躍の礎は、まず日々の地道な鍛錬があってこそ。何事も王道に近道はないのだ。醍醐コーチは、指導の大前提についてもこう語る。
「そもそも私は記録の目標設定をしないんです。特に、絶対数字では言わない。もちろん心の中にはありますよ。2人ともお互いにありますけど、あえて口にするとそれがゴールになっちゃうじゃないですか。そうすると跳んだ後に達成感に満たされちゃうし、そもそも記録に捉われてやると、絶対に選手が楽しくなくなるんですよ。『その高さを跳ぶのにはどういったことが必要か』という話はしますけどね」
「“出てしまった”記録」は選手を苦しめる?
ある記録を目標にすると、その成否に一喜一憂することになる。
動きや跳躍そのものの出来よりも、記録への執着が出てしまう。すると、仮に良い跳躍ができたとしても、結果の尺度でしか判断ができなくなる。だからこそ醍醐コーチは常々、こんな言葉を繰り返していた。
「“出てしまった”記録はかえって本人を苦しめることにもなる」
陸上競技にはたまたま調子やタイミングが合った結果、実力以上の記録が出てしまうことがある。ただ、そういった“出てしまった”記録は再現性に乏しい。そこに捉われ、苦しむことになったアスリートを醍醐コーチは過去にも見てきたという。
あくまで記録というのはついてくるもの。「良い跳躍ができたので、結果的にその高さは跳べた」という因果が理想的なのだそうだ。
過去を振り返ってみても、近年の高橋にはいわゆる「想定外の好記録」というケースがほとんどない。その反面、昨季も当時の自己ベストに迫る1m80cm台後半の記録を幾度もマークしている。今回のチェコの記録会前にも、欧州の試合で自己ベスト級の記録を連発しており、その「再現性」の高さはこういった指導方針の結果なのだろう。