- #1
- #2
ボクシングPRESSBACK NUMBER
「日本では稼げない、相手もいない」看護師ボクサー30歳でプロ転向の舞台裏…古びたジムで“昭和の名ボクサー”と目指す10億円のファイトマネー
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byWataru Sato
posted2024/12/30 11:05
看護師を続けながら、プロボクサーに転向した津端ありさ(31歳)
63歳の大和田トレーナーも、その思いをしっかり受け止めている。平日は毎朝4時に起床し、仕事に精を出すが、週末はジムで必死に取り組む津端と真剣に向き合う。ミット越しに熱を帯びた拳の重みを感じていた。
「ひしひしと伝わってくるんですよ。一番の伸びしろは、ファイティングスピリッツ。彼女の熱意に心を動かされました。こっちも、選手の気持ちに応えないといけないなって。教わる側と教える側の思いが一致しないと、プロのリングでは勝てませんから。こんな思いになるのは、何十年ぶりだろう」
遠くを見るような目で昔の自分とイメージを重ねていた。
ADVERTISEMENT
「『そんなんじゃダメだ』と言うと、負けじと俺のミットに向かってくるんですよ。そのとき、赤井戦前の練習を思い出してね。自分もそうだったなと。当時のトレーナーも、今の俺と同じ気持ちだったのかなって」
津端は30歳でプロ転向を決意したときに心に誓った。
「『世界チャンピオンになる』って。周りにもそう言っているので、嘘はつきたくないんです。いい意味でがむしゃらに取り組んでいた20代。いまは頭がクリアになり、体も動いています。自分自身、まだ伸びると思っています」
国内に相手がいない…女子ボクシングの現実
24年5月にC級プロライセンスを取得し、同年12月にフルマークの判定勝ちでプロキャリアをスタートしたばかり。ここからは、茨の道が待っている。競技力の向上はもちろんのこと、女子中量級のマッチメークは簡単ではない。日本女子のスーパーライト級(63.5kg以下)は、津端ひとり。試合をするためには対戦相手を海外から日本に連れてくるか、自らが海を渡るしかないのだ。
後楽園ホールでのデビュー戦も、興行主にタイから選手を呼び寄せてもらった。自ら100枚ほどのチケットをさばいても、手元に残るのはファイトマネーを含めて20万円程度。対戦相手の交通費を含めた諸経費の半分は自分のスポンサーに負担してもらい、残りは手売りしたチケットの売り上げを充てた。自己負担も多く、当面ボクシングだけで生計を立てるのは難しいだろう。
行く先には厳しい現実が見えているものの、津端はすべての事情を理解した上でのチャレンジだという。非常勤の看護師とスポンサーの支援で何とか生計を立てており、むしろ、あっけらかんとしている。
「“何とかなる”でやっています。覚悟を決めて、プロになっているので。もちろん、もっとスポンサーを探さないといけないと思っていますが、『一生懸命頑張っている人、必要としているところにお金は来る』と誰かが言っていましたから」