12月3日には、落合本人と野村監督が東京・港区の新高輪プリンスホテルで顔を合わせ、初の入団交渉。名将は「野球界始まって以来、最強の右打者」と落合の名前を挙げ、今だから言えることと前置きした上で、「ここを攻めておけば大丈夫というのがない。欠点や弱点が見当たらなかった」と最大限の賛辞を送った。1時間30分に渡る交渉で、オマリーの退団で空いた「四番一塁」のポジションと2年目の宮本慎也がつけていた「背番号6」を用意。オレ流がチームに溶け込めるよう早くも来春のユマ・キャンプへの参加を要請した。話が弾み上機嫌なノムさんは、事実上の勝利宣言まで口にする。

「条件の話は、全体の10～20％程度。後はワタシの野球論を彼に話した。入団を想定したキャンプ、オープン戦のことも話題に出たし、感触は十分。もう（落合が）ヤクルトの一員のような気がします」（週刊ベースボール1996年12月23日号）

巨人最終年となった1996年シーズン。42歳の落合は打率.301、21本、86打点、OPS.924という成績でリーグVに貢献した　©JIJI PRESS

　この時、年俸2億円に出来高5000万円の単年契約という条件を話題にするマスコミはほぼ皆無に近い（後年、YouTube「落合博満のオレ流チャンネル」では、野村監督から「まだ年俸は決まってないんだよ」と交渉の席上で告げられたことを明かしている）。これまで「選手の商品価値イコール年俸」と公言してきたオレ流も、さすがに今回ばかりは、条件云々よりも意地と男気を優先させるだろう。そんな推測が飛び交う中、当時としては異例のインターネットを通じて賛否の意見を求めると、90％近いヤクルトファンが落合の獲得に賛成だったという。

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　ID野球の申し子・古田敦也も「大歓迎です。どんなバットを使っているか知るだけでも参考になりますよ」とこれまで苦しめられた大打者の獲得を後押し。メディアは、近日中に日本ハムへ断りを入れ、ヤクルト落合誕生へ……という論調で占められていた。だが、そのムードは12月4日に行なわれた日本ハムと落合との初交渉で一変する。

＜続く＞

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