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格闘技PRESSBACK NUMBER
三沢光晴夫人ら被害は「1億円超」…プロレスリング・ノアを襲った“巨額詐欺事件”の手口は? 急逝「昭和プロレスの語り部」が明かした“ノア崩壊”ウラ話
text by
欠端大林Hiroki Kakehata
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2024/12/04 11:16
故・三沢光晴が立ち上げた「プロレスリング・ノア」を震撼させた巨額詐欺事件。11月に急逝したマイティ井上が明かしていたウラ話とは?
最大の理解者と信じていた井上さんに突き放された泉田は、失意のどん底に突き落とされた。井上さんは実にさっぱりとした人で、叱責しても絶縁まで宣言したわけではない。だがショックを受けた泉田は、再び井上さんに電話をかけることができなくなり、さらに孤独を深める形になってしまったのは不幸なできごとだった。
その後、N夫人は複数の詐欺容疑で逮捕され、懲役8年の実刑判決を皮切りに、泉田の事件でも追加で有罪(実刑)判決を受けている。最後の最後で一矢報いた格好になった泉田は2017年、判決を見届けたあとに51歳の若さで死去した。
その訃報を知らせてくれたのも井上さんだった。泉田の死が業界関係者に伝わったのは、死亡日とされた日から2週間ほど後のことだったが、井上さんは、ほぼリアルタイムで情報をつかんでいた。
「あいつのことは、いつも気になっていた。所属選手として事件に巻き込まれて、もう少しノアの仲間たちが手を差し伸べてやれば、こんなに若くして亡くなることもなかったと思いますよ。厳しく言ったこともあったけど、同じリングに上がった仲間やからね。かわいそうなことをした……」
人情派の井上さんらしい言葉だった。
小橋健太の復帰を見て、井上が涙したワケ
井上さんが「一度だけ、プロレスを見て泣いたことがある」と語ったできごとがある。2007年12月2日、ノア武道館大会でのことだ。
この日、腎臓ガンが判明し長期欠場中だった小橋建太が1年半ぶりにリング復帰を果たした。満身創痍のエースがカムバックしたその姿を見て、井上さんは身内のレフェリーでありながら、武道館の片隅で「密かに泣いた」という。
我が身を削りながら、ノアに尽くした小橋を井上さんは高く評価していた。それは言い換えれば、悲運の団体「国際プロレス」を最後まで見捨てなかった井上さんの、職業人としてのプライドであったのかもしれない。
プロレスを愛し、仲間を大切にした井上さんはいま、天国で泉田と再会していることだろう。「マイティさん、聞いてくださいよ。あのあと、僕は裁判に勝ったんですよ」――そんな泉田の弾んだ声が、いまにも聞こえてくるような気がする。