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なぜソフトバンクは「今年1球も投げていない」投手を指名した? 育成7位・津嘉山憲志郎のドラフト会議ウラ話「こういうこともあるんだな、と…」 

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沢井史

沢井史Fumi Sawai

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photograph by(L)Nanae Suzuki、(R)Fumi Sawai

posted2024/11/14 11:00

なぜソフトバンクは「今年1球も投げていない」投手を指名した? 育成7位・津嘉山憲志郎のドラフト会議ウラ話「こういうこともあるんだな、と…」<Number Web> photograph by (L)Nanae Suzuki、(R)Fumi Sawai

ソフトバンクから育成7位で指名を受けた神戸国際大附高の津嘉山憲志郎。1年時から「プロ注」だった津嘉山が、今年は1球もマウンドで投げなかったワケは…?

 慣れない寮生活も、先輩や同級生のお陰ですぐに馴染んだ。だが、津嘉山の中でこれだけは遵守しようと思ったことがあった。

「沖縄の人は行動が遅いって言いますよね。でも、その中で何か抜けるには周りとは違うことをした方がいいと思ったんです」

 沖縄タイム、という言葉がある。沖縄県民は時間にアバウトで、集合時間や起床時間が人より遅れがちなことをソフトに表現しているが、野球をやっている身としてはどうもこの見られ方が引っ掛かった。そのため、何事も早めに、集合時間も30分前には必ず到着することを心掛けた。

「早く行動する癖をつけるだけでなくて、周囲とは違うことをしないといけないって思ったんです。ご飯の時間は準備があるので時間の少し前でいいとして、起床時間も集合時間も基本的に30分前にしていました」

 練習にもとにかく真摯に向き合った。自主練習は誰よりも早くグラウンドに来て、トレーニング器具を手にし、寒い冬の朝もランニングを敢行した。そんな津嘉山の姿を青木尚龍監督は毎日目にしてきた。

「僕は30年以上指導していますが、ここまで野球に対して真摯に打ち込んで、野球が好きな子はいないです。何より取り組む姿勢がすごくいい。練習を始めるのに、寮を出てくるのも1番、何をするのも1番。どんな時でも真っ先に姿を見せたのが憲志郎でした」

昨夏の兵庫県大会はセンバツ準優勝校を撃破

 入学直後は100キロを超えていた体重が数カ月で90キロ台に絞られたのも連日の練習の成果だ。1年夏以降はチームに欠かせない存在となったが、思い出されるのが昨夏の兵庫大会だ。

 5回戦でセンバツ準優勝の報徳学園と対戦した試合で先発した津嘉山は、初回に1点を奪われるも以降は要所を締め、8回まで毎回となる9個の三振を奪い、8安打2失点(自責点1)で完投勝ちした(3-2)。

「報徳学園のバッターはどんな球種でもしっかり自分のスイングをしてくるので、そこをかわすのではなく勝負していこうと。特に中軸の3人は春に対戦した時もしっかり打っていたので、夏くらいから覚えたスプリットを使って抑えられたので良かったです」

 特に4、5番打者からは計5奪三振。事実上の決勝戦と言われた接戦を制し、準々決勝では神戸第一との延長10回のタイブレークをものにして準決勝へ。だが、前年夏に苦杯をなめた社に1-2で敗退。夏の甲子園出場とはならなかったが、新チームでは主将、そしてエースと二足の草鞋を履き、その動向に注目された。

 だが、秋の地区大会を終え県大会へ向かおうとした8月下旬、津嘉山に異変が起きる。

<次回へつづく>

#2に続く
「背番号1は憲志郎以外、考えられなかった」高校でトミー・ジョン手術→ソフトバンク育成指名…“投げられないエース”にチームが最後の夏を託したワケ

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