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ドラフト裏話「会見当日に体育祭の借り物競争」「監督はスマホで“小船どこ?”」198センチ腕が初指名の無名校に密着「広島育成1位の評価は…」
text by
間淳Jun Aida
photograph byJun Aida
posted2024/10/28 11:01
広島育成1位・小船翼のドラフト会見が行われた知徳高校。会議室が使用された
この時は待機していた選手は指名されなかった。当時、ドラフトの対応は主に2人の教師が担当していた。しかし、2人とも今は学校を離れている。会見場のセッティングは5年前に撮影した写真を参考にしたという。ドラフトの対応は野球部以外の教師が担った。
「小船に恥ずかしい思いをさせたくない」
ドラフト候補に小船の名前が挙がってから、知徳は学校全体で準備を進めてきた。
2019年のドラフトでは無線LANを使ってドラフトの中継が途切れたことから、今回は有線LANを事務室から引っ張った。パソコンも複数台準備して万全を期した。小船が着席した後ろには知徳の校名や校章が入ったバックパネルを設置。ドラフト常連校にも見劣りしない会見場に仕上げた。
ドラフト前、体育祭の借り物競争「背が高い人」で…
会見は当初、小船と初鹿監督が着席した形を予定していた。支配下選手の指名が終了した時点で午後7時15分。新聞の締め切り時間を考慮して、育成で指名を受けた場合は小船だけが立って質問に答える囲み取材に変更。関係者は連携を取って臨機応変に対応した。
裏方の人たちがせわしなく動いたように、小船も大忙しの1日だった。この日は朝から、前日の雨で順延された体育祭が行われた。小船は借り物競争で「背が高い人」のお題に応えるために駆り出された。綱引きではチームをけん引し、玉入れでも存在感は抜群だった。玉入れのカゴは近くの保育園から借りる予定だったが、長身の小船はジャンプすると届いてしまうため、4メートルの物干し竿の先にカゴをつける“特注”が準備された。
この身長を生かした投手に成長したことが、小船がドラフトで指名されるに至った要因だった。小船は小学5年生で身長170センチと目を引く選手だった。ところが、中学時代は4番手投手。知徳入学時は直球の最速は120キロ台後半だった。初鹿監督が当時を回想する。
「まさか、高校3年間でここまでの投手になると想像していませんでした。本人もドラフトやプロを全く意識していなかったと思います」
目標を上方修正したのは2年春だった。球速が142キロまで伸びた。初鹿監督が語る。
「このまま育っていけば、ドラフトで指名されるレベルの選手になる可能性があると感じました。実は、1年夏に小船の球速は入学時より落ちました。その後の秋の大会で『何かつかめたかもしれません』と130キロを上回りました。そして、段階的に球速の目標を掲げて有言実行で2年春には140キロを超えました。自分自身をよく知っているところも小船の長所だと思います」
広島育成1位指名の評価…どう思う?
小船は順調に成長し、2年生の秋に直球の最速が150キロに達した。プロの注目も高まり、6球団から調査書が届いた。そして、プロのスタート時点に立つ権利を得た。「育成1位」の現在地と評価も冷静に受け止めている。