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ドラフト裏話「会見当日に体育祭の借り物競争」「監督はスマホで“小船どこ?”」198センチ腕が初指名の無名校に密着「広島育成1位の評価は…」
posted2024/10/28 11:01
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Jun Aida
「小船、今どこにいる?」
喜びの一声は、創部69年の野球部に新たな歴史を刻んだ。
静岡県長泉町にある私立知徳高校の小船翼投手は、ドラフト会議の中継を見ていた別室から記者会見場に現れた。
「指名されて本当にうれしいです。少し緊張はありました」
午後7時37分。すでに支配下登録選手の指名は終わっていた。広島の育成指名の1巡目。最速152キロ右腕・小船の名前が呼ばれた。知徳では校名変更前に2人のプロ野球選手が誕生している。だが、独立リーグや社会人を経由してプロ入りしているため、高校から直接ドラフト指名されたのは小船が初めてだった。
知徳史上初の快挙に備え、学校関係者は期待と不安が交錯していた。
時計の針を巻き戻す。小船が広島から指名を受ける3時間半前に“事件”が起きていた。
ドラフト会議を約30分後に控えた午後4時13分。記者会見場で学校関係者がざわついた。男性教師が会見場に困惑した様子で現れ、知徳の初鹿文彦監督に声をかける。
「小船が見つからないんです」
この日の主役、小船がいなくなったという報告だった。予定していた時間になっても、写真撮影するグラウンドに来ていないという。
小船の身長は198センチ。待ち合わせ場所で目印にされそうなほど、どこにいても目立つ。その小船が“消えた”のだ。初鹿監督がポケットからスマートフォンを取り出して、小船に電話をかけた。
「今、どこにいる? そうか。これから写真撮影あるからな」
小船は約束通りグラウンドで待機していた。混乱する関係者と対照的に冷静だった。安堵した人たちから声が漏れる。
「あんなに大きいのに見えなかったのかな」
毎年のようにプロ野球選手を輩出している高校であれば、ドラフト会議の対応は年に一度の行事となっている。しかし、知徳にとっては特別な日。関係者が慌てるのは当然と言える。
事務室から有線LANを引っ張って…
知徳がドラフト当日に記者会見場を設けるのは2019年以来だった。