「僕は人を見るのが好きですからね」

　これも戸柱の口ぐせだ。試合中のグラウンドやベンチはもちろん、練習中、さらにオフモードになるバックヤードでも投手たちの微細な変化にアンテナを立てている。これは今に始まったことではなく、入団2～3年目ぐらいから捕手として心掛けてきたことだ。

ジャクソンと会話しながらベンチに戻る。ジャクソンの日本球界適応に戸柱は大きく貢献した　©JIJI PRESS

試合に出ていなくてもやれることはある

「当然のこととして自分が出ていない試合であってもベンチからしっかりとゲームを見ていますし、また試合映像の振り返りも毎日習慣づけしています。自分が試合に出ていなくてもやれることはたくさんあって、例えばピッチャーには投球後、どういう感じで入っていったのか、あの時はどういうボールを使ったのかといったコミュニケーションを取っているので、いざ自分の出番が来てもすんなりゲームに入れるよう準備できているんです」

　ゲームに出ている、出ていないにかかわらず、戸柱が投手たちとベンチで会話をしているシーンがよく見られる。いつ出番が訪れるかわからない状況であっても、投手たちとコミュニケーションを取り、情報をインプットし、時には若い選手たちの様子を見ては積極的に声を掛ける。まだ一軍慣れしていなかった、今季移籍加入の中川颯やプロ2年目の吉野光樹は、戸柱のおかげで気負うことなくプレーできていると感謝を表している。

ファームでも見られているという意識で

“見る”ことは、また“見られる”ことでもある。大卒社会人からDeNAに入団して9年目、ここまで決して順風満帆のプロ野球人生ではなかった。ルーキーイヤーは110試合でスタメンマスクをかぶる活躍を見せたが、3年目から4年目にかけては、期待に応えられずファームで過ごす時間も長かった。戸柱はこの時期を“どん底”と言うが、一方で得る物も多かったという。

「苦しい時間でしたが、その反面もっと野球が上手くなりたいという気持ちが強くなったんですよ。また、しっかりやっていさえすれば、きっと誰かが見ていてくれるはずだって。それに僕はチーム内でも年齢が上の方なので、一軍ではないところでもしっかりやる姿を見せなければいけない。若い子たちはそういう姿を見るでしょうし、いい影響を与えなくてはいけないって。結果、あのとき我慢してよかったなって今は思うんですよ」

　しみじみとした口調で、戸柱は言った。

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