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パリ五輪“性別騒動ボクサー”が語った不条理「なぜ彼らが私を嫌うのか、本当にわからない」…対戦相手「彼女は女性」現地で記者が見たリアル 

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齋藤裕

齋藤裕Yu Saito

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posted2024/09/15 11:03

パリ五輪“性別騒動ボクサー”が語った不条理「なぜ彼らが私を嫌うのか、本当にわからない」…対戦相手「彼女は女性」現地で記者が見たリアル<Number Web> photograph by Getty Images

パリ五輪ボクシング女子66kg級で金メダルを獲得したイマネ・ケリフの記者会見。大会期間中に受けた「さまざまな攻撃」への思いを語った

 国旗掲揚とともに国歌が流れる。アルジェリア国歌「誓い」。冒頭から「私たちは誓います 全てを破壊する稲妻にかけて 戦いで流れた人々の血にかけて」と強い復讐心が込められ、独立への意志や抑圧への反発が読み取れる歌詞となっている。その歌詞を聞きながら、涙を溜めるケリフ。セレモニーを終え、国旗を背に肩車をされながら場内を周回。観客席の最前列にはアルジェリア国旗が集まっていた。

 表彰式後はアラビア語で取材に対応し、記者会見があるため、報道陣のいるエリアを後にする。足早に引き上げようとするケリフは手のひらに乗せた金メダルに口づけをして、少し下を向きながら笑みをこぼしていた。

「本当にわからないんです」ケリフが語った“不条理”

 記者会見場では10人以下になることも多い出席者が、この会見場には50人近くつめかけ、一斉に10名以上から質問の手が挙がる。質問を受け、ケリフが金メダルまでの道のりを語りだす。

「私は女性として生まれ、女性として生き、女性として戦ってきた。そこに疑問は何もない。さまざまな攻撃はあったが、それが今回の金メダルを特別なものにしてくれた」

 真面目な表情で言葉を発した中で、「特別なもの」と語った時だけは不敵な笑みを浮かべた。そして今回のIBAの対応についてはこんな思いを明かす。

「私は2018年からIBA傘下の大会に出て、彼らは私の能力についてよく知っているはずです。そして年々成長していることも知っているはずなんです。でも彼らはもう認めてくれないし、私を嫌っている。私にはなぜだかわからない。本当にわからないんです」

 この不可解さは日本にとっても他人事ではない。現在ロシア人実業家が会長を務めるIBAとは別に、イギリス、アメリカ、オランダなどが加盟する新競技団体「ワールドボクシング」(WB)が独立する形で設立され、アマチュアボクシング界は冷戦体制のような東西分裂の情勢になりつつある。なお、ケリフはこのWBの大会にも今春に出場している。日本ボクシング連盟はWBに加盟しつつ、IBAからは脱退しない方針だ。IBAはWBに加盟した国への除名処分も示唆しており、性別適格性検査以外でIBAから資格を剥奪される可能性もゼロではない。4年後の五輪も、どの団体が運営団体となるかはまったく決まっていない。

 金メダルを獲った夜、パリの街中でアルジェリア国旗が舞い踊った。自家用車の窓からアルジェリア国旗を掲げる女性、国旗を背負いセーヌ川沿いを歩く男性2人組の姿、スタジアムの各出口では20人ほどのグループが国旗を揺らし、叫びを上げ続ける。刹那の幸福を惜しむように24時を過ぎても凱歌が止むことはなかった。

<前編とあわせてお読みください>

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パリ五輪“ボクシング性別騒動”とは何だったのか?「誹謗中傷が殺到」「報道陣から怒号も」発端は“不透明な性別検査”…現地記者が伝えるウラ側

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