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パリ五輪“性別騒動ボクサー”が語った不条理「なぜ彼らが私を嫌うのか、本当にわからない」…対戦相手「彼女は女性」現地で記者が見たリアル 

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齋藤裕

齋藤裕Yu Saito

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posted2024/09/15 11:03

パリ五輪“性別騒動ボクサー”が語った不条理「なぜ彼らが私を嫌うのか、本当にわからない」…対戦相手「彼女は女性」現地で記者が見たリアル<Number Web> photograph by Getty Images

パリ五輪ボクシング女子66kg級で金メダルを獲得したイマネ・ケリフの記者会見。大会期間中に受けた「さまざまな攻撃」への思いを語った

 この日も100人近くの報道陣が詰めかけたが、ケリフは決勝を控えていることもあってか、論争への言及を避け「ベストを尽くす」と言葉少な。会場にブーイングはなく、スタジアムを出た外周の歩道では23時を過ぎてもアルジェリア国旗を嬉しげに振り回す人たちが集まり、喜びを分かち合っていた。

大歓声の表彰式「宝物と出会った少女のように…」

 決勝の相手は世界選手権で幻のマッチとなった楊柳(ヤン・リウ)。卓球会場では日本を圧倒してきた中国の応援が霞むほどのアルジェリア国旗が、観客席を埋め尽くす。アルジェリア国旗の中央にある三日月と星ほどの大きさで、かすかに赤く四角い旗が認められるくらいだ。割合としてはアルジェリア40に対し中国1というほど圧倒的多数を占めていた。

 22時50分過ぎ。ケリフが飛び跳ね、シャドーをしながら入場する。ブーイングの構えをする観客は数人いたが、大歓声にかき消され、その声は聞こえない。

 試合はケリフがヤンを圧倒。2、3発パンチを連続して当てると大歓声が沸き起こる。勝利へのカウントダウンのように「1、2、3、イマネ!」の声が束となって試合中のリングに注がれる。

 3ラウンド終了後、相手セコンドから抱きしめられ、どこか勝利を確信するように喜びを隠さなかったケリフ。審判に急かされ、左拳を預けると、判定がくだされる前に右拳を掲げた。フルマークでケリフの勝利。この大会、ラウンドでの優勢を意味する「10」を相手に一度もつけられることはなく、完全優勝と言っていい内容だった。リング中央で両足を上下した後、コーチに飛びついて抱擁を交わす。リングサイドからの去り際、王者は力強く拳を2度振り下ろした。

 ケリフ不在の会場にもイマネコールが響き渡る。別種目の表彰式でもアルジェリア国旗が揺れ続ける。そして待望の金メダリストが登場すると場内は大喝采。一度顔を拭ってから表彰台の頂点に上がった。ケリフは何度も何度も金メダルに口づけをする。ようやく手にした宝物と出会った少女のようだ。表彰台に上がった他の3選手(3位決定戦はなく、準決勝敗退で銅メダリスト2名が確定)も笑顔でその様子を見守り、メダリスト全員での写真撮影を呼びかけていた。

【次ページ】 「本当にわからないんです」ケリフが語った“不条理”

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