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「今までで一番いい試合だった」リベロ山本智大の涙腺を崩壊させたブラン監督と小川智大の言葉…“3番手”から這い上がった守護神の足跡
posted2024/09/12 11:03
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Kaoru Watanabe/JMPA
準々決勝後のコート。選手たちが円になって言葉を交わす間、ベンチで目を赤くはらしながら見守っていたフィリップ・ブラン監督は、輪が解けるのを見はからって選手たちに歩み寄った。退任することが決まっていた指揮官は、一人一人と抱き合い、最後のメッセージを紡いでいった。
「今までで一番いい試合だった。お前がベストリベロだろ」
そう言われた山本智大(大阪ブルテオン)は指揮官の胸で泣きじゃくった。
「その言葉が嬉しかったんですけど、なんとしてもメダルをプレゼントしてあげたかったので、非常に悔しかったですし、申し訳なかった。でも、僕は彼に救われたというか、人生を変えてもらったので、感謝の気持ちでしたね。
2019年に初めて代表に選ばれた時は『3番手』と言われていましたが、1年目から今までずっと使ってもらったので。だからこそここで結果を出して、恩返しして、辞めさせてあげたかったんですけど、それができなかった……」
「ムカついたりすることもあった」
監督の厳しい指導や指摘に対し、時には心の中で悪態をつくこともあったが、信頼し、共に戦ってきた。
「こっちも必死にやっているので、ムカついたりすることもあったんですけど、あとから『そうだよな』と思うことも多かった。彼は芯が通っているというか、非常にバレーボールに対して勉強熱心で、毎日映像を見て、僕たちをより良くしてくれようとしていた。
ずっと一緒にやってきたので、彼の言いたいことや性格もわかっている。寂しいですね。日本のバレーを強くしてくれたのはブランなので、ありがとうという気持ちです」
その後、選手同士で言葉を交わし、ねぎらいあい、笑顔も見られるようになった山本の涙腺を再び崩壊させたのは、たった一つのリベロのポジションを争った小川智大(ジェイテクトSTINGS愛知)だった。