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「めっちゃいいチームだよ」現役ドラフト移籍、DeNA佐々木千隼投手を救った言葉…「30歳、まだまだできるよ!」背水の陣で変えたものとは
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byJIJI PRESS
posted2024/09/09 11:02
ロッテから現役ドラフトで移籍してきた佐々木千隼。今季はブルペンの一角として復活を遂げたといっていいだろう
豊富な経験。現在でこそスライダーピッチャーの佐々木だが、ロッテ時代に肘と肩の故障があり、スタイルチェンジを余儀なくされている。桜美林大学時代は150キロを超える速球とシンカーを武器にする本格派だったが、生き残るために現状を受け入れてきた。ただ、そこには葛藤があったことを佐々木は正直に吐露する。
「大学時代に150キロ以上で投げられていたのを、投げられなくなったことがすごく嫌で苦しかったことがあるんです。本当ショックで、何でこうなってしまったのか。でも、そのハードルを下げることで、自分を許せるようになり気持ちが楽になったし、投手としての幅も広げることができました。ただ……」
そう言い淀むと佐々木は苦笑してつづけた。
「やっぱりどこかに150投げたいなって思いがあるんですよ。別に150なんて今の時代、速いボールじゃないけど、やっぱり投げてみたいなって……」
実現は難しいかもしれないが、この言葉に佐々木の投手としての矜持を感じてならなかった。
「いいじゃん。めっちゃいいチームだよ」
受け入れることの潔さと覚悟。現役ドラフトのときもそうだった。ドラフトの前日、佐々木は予感もあって家族に「チームが変わるかもしれない」と伝えていた。そして予感は的中し、球団のトレーニングルームにいた佐々木の電話が鳴った。その傍らには、DeNAから移籍して来た国吉佑樹がいた。その報を聞いて、国吉は佐々木にこう言ったという。
「おっ、いいじゃん。めっちゃいいチームだよ」
愛着のあるロッテを離れることで胸に寂しさが去来していた佐々木を救うような国吉の言葉。思えば、2016年のドラフト会議で佐々木はDeNAから1位指名を受けており、また大学時代には球団OBの野村弘樹氏から指導を受けたこともあって、DeNAはいつも気になる存在だった。
「学生時代に一番身近に感じていたプロ野球球団はベイスターズだったので、求められて行くということで、正直嬉しかったという思いもあるんです」
縁あってDeNAでリスタートを切るわけだが、言葉は悪いが現役ドラフトに掛かるということは、背水の陣を意味する。それは佐々木も重々承知だった。