炎の一筆入魂BACK NUMBER
「今だけを見ていないから」若手を育てつつリーグ優勝を射程圏内に収めた、カープ新井貴浩監督の胆力
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/08/26 11:01
若手を育てながら勝つという難題をクリアしつつある新井監督。来季も期待できる戦いぶりだ
投手だけでなく、野手でも若手の積極起用が目立つ。開幕前から「戦いながら強くなっていく」と言い続けてきた新井監督にとって、シーズン終盤はチームを完成形に近づける時期と言える。だが、後半戦に入っても打率リーグ10傑入りする秋山翔吾や野間峻祥をスタメンから外し、中村奨成を6試合連続スタメン起用するなど打線の入れ替えを止めない。
もちろん、主力を休ませる意味合いもある。就任1年目は優勝争いに絡みながら、勝負どころを前に主力の離脱が相次ぎ、ラストスパートをかける前に後退した。だが、若手の起用はその反省だけが理由ではない。新井監督は覚悟を持って采配を振っている。
「今だけを見ていないから。迷うこともあるけど、使う側が腹を据えるだけ。若い選手にとって、こういう中で試合に出られることは、たとえ失敗しても学ぶものがある」
実りある全員野球
残り40試合を切ってもまだ、ムチを打たずに全員野球を貫く。目先の勝利だけでなく、チームの来季以降も見据えて戦っている。
若手が出番を得る中で、主力選手も意地を見せている。8月4日の中日戦では、スタメン野手の平均年齢が前日の30.5歳から26.6歳と若返った。その中で1回に四球で出塁した秋山翔吾は、2番野間のレフト右への当たりに判断良く加速して一気に三塁を陥れた。36歳の好走塁が1回5得点の若き打線を牽引した。
夏場の9連戦最終戦となった14日のDeNA戦では、9回無死一、二塁からの強攻策で25歳の中村奨がレフトフライに倒れた直後、菊池涼介の逆転サヨナラ3ランホームランが飛び出した。
投打ともに主力の下支えがあるからこそ、若手に経験の場を与えながら白星を積み重ねられている。一軍に復帰した末包昇大と復調した坂倉将吾、そしてチームでただ1人全試合出場を続ける小園海斗の若手3選手が中軸に固定され、打線にはつながりが生まれた。前半戦は.229だったチーム打率は、後半戦に入って.271と上昇した。
若い力を育みながら、新井カープは6年ぶり頂点へと駆け上がろうとしている。