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計量失格インド人レスラーの悲劇「8歳時に父が射殺され…」「レスリング連盟のセクハラ告発」須崎優衣に勝った“幻のメダリスト”知られざる壮絶人生
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byGetty Images
posted2024/08/25 17:03
パリ五輪レスリング女子50kg級で決勝に進みながらも、計量で失格となったビネシュ・フォガト。五輪後、首都デリーの空港で熱烈な歓迎を受けた
レスリング連盟会長のセクハラを告発…インド社会の闇
フォガト姉妹とて例外ではない。そもそもビネシュはインドのレスリング界に起こったスキャンダルの告発者として知られている。2023年1月、彼女は他の選手らとともにインド・レスリング連盟のブリジ・ブーシャン・シャラン・シン会長とコーチを弾劾した。過去何年にもわたり、女子レスラーに対して胸部や臀部に手を這わせるなどのセクハラが行なわれていたというのだ。彼女たちが座り込みの抗議活動を行なったことで、会長らのセクハラ行為は世間にも知られることになった。
インド政府は即座に調査委員会の設置を約束し、抗議運動は鎮静化した。だが政府が約束を反故にしたため、3カ月後ビネシュたちは座り込みによる抗議を再開した。この際に警察との衝突が起こり、多くの支持者が拘束され、選手たちは暴行を受けた。その様子はSNSによって拡散されている。
その後、選手たちは座り込みではなく、法的手段によって訴えを続けることを表明したが、ことは穏やかに進まなかった。というのも、ブーシャン会長は与党のインド人民党の国会議員。同党は警察組織にも強い影響力を持っており、告発を捜査しなければならない立場のデリーの警察は捜査の根幹をなす第1次情報報告書の登録を拒否。最高裁判所が事件に介入してから、ようやく重い腰をあげたという。
しかもブーシャン会長はセクハラ行為を繰り返し否定し、「ひとつでも事実だと解明されれば、首を吊る」とまで弁明した。ビネシュたちの告発は会長のセクハラを訴えるだけにとどまらず、インド社会にはびこる闇を浮かび上がらせることにもなった。