「この言葉を使うと、なんでも乗り越えられたんです。今日だって最初に負けた時はすごい悔しいというか、もう悲しくて。俺このまま踊り切れるかな？みたいに思ったんですけど。でも、人生で考えたらおもしれぇじゃないですか。こんなちょっとした負けなんて。今日予選落ちしたのも、1回も勝てなかったのも、人生の長い目で見たら面白いんですよ。地球規模とか宇宙規模で見たら、こんなちっちゃいジャパニーズBボーイが負けただけですよ。地球からしたら全然、何も痛くない」

　滔々と思いを吐き出す。記者たちもHIRO10も笑っていた。笑っていたが、真剣だった。

「俺が何で踊ってるのかっていうと、やっぱ自分が踊ったパワームーブによって世界が平和になってほしいなって。そういうことを考えると、別に勝ち負けなんてどうでもよくて……おもしれぇっス」

両手を突き上げ、ステージを去る。スタンドから大きな拍手が起こった　©Asami Enomoto／JMPA

「ヤバいっす」地球規模の反響

　会場にはHIRO10の家族も応援に来ていた。父・善行さんは美容師で、ブダペストでの最終予選、そして今回も前髪に入れたラッキーカラーの青のメッシュは善行さんによるものだ。試合後、家族からも感謝の思いを伝えられたという。

「オリンピックがなかったらパリに家族旅行なんてできなかったって言ってくれました。僕の小さい頃の夢が、家族を自分のダンスで海外に連れて行くことだったので、それが今回叶ってすごい嬉しいです」

　この日、そのダンスに心を揺さぶられたのは、身近な人や会場にいた観客だけではなかった。HIRO10の魂のムーブはSNSでもどんどん拡散していった。ラッパーとして長年ヒップホップカルチャーを支えてきたスヌープ・ドッグは「Breakin!!!!」という一言とともに動画を投稿し、スーパーモデルのナオミ・キャンベルまでHIRO10のインスタに絵文字で2件もコメントを残していった。それはまさに地球規模と言えるような広がりを見せた。

観客がHIRO10にハイタッチを求めた　©Asami Enomoto／JMPA

　パリから帰国して数日後、HIRO10はその反響の大きさに「ヤバいっす」と驚いていた。

「皆さんからの反応で、メダル以上に意味があるオリンピックだったなと感じています。自分がなんでオリンピック行くんだろう、一番何がしたいんかなと考えた時に、自分が好きなパワームーブを見せることが目標だった。だから、ある意味すごく満足のいくオリンピックでしたね」

　そして休む間もなくヨーロッパへととんぼ返りした。オランダで歴史あるブレイキンの大会に参加し、そこからスロバキア、ポルトガルでの連戦が待っている。次の週にはスロベニアでジャッジがあり、そのままヨーロッパから台湾に行き、またヨーロッパへと戻る。次に日本に戻ってくるのは11月になるという。

　12月にブラジルで行われる世界最高峰のソロバトルイベント『Red Bull BC One World Final』へのワイルドカードも早々と決まった。これもオリンピックで残した衝撃ゆえだろう。

　人生はおもしれぇ。HIRO10のオリンピックジャーニーは終わった。だがブレイキンジャーニーに終わりはない。