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「ジャッジ何やってんだ」判定不満の大ブーイング、パリ五輪“会場を一番沸かせた”19歳の日本人…HIRO10が記者に明かした「ヤバいっす」海外から予想外の反響
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2024/08/23 17:11
パリの会場を沸かせたブレイキンHIRO10(19歳)
妹のダンス教室に見学に行き、最初に習ったのはアイドルダンスだったという。ブレイキンをやり始めると何よりもパワームーブに魅せられ、その練習に多くの時間を費やした。同年代には他に秀でたBボーイがたくさんいて、イベントでは負けてばかりだったという。
高校卒業後に海外に武者修行に出ると、さまざまなスタイルのBボーイ、Bガールに出会い、パワームーブだけでなくトップロックやフットワークの楽しさにも目覚めていく。それが総合力を高めることに繋がった。オリンピックの選考に繋がる国際大会で結果が出始めたのもその頃からだった。
この1年は飛躍的な成長を遂げ、世界各地のイベントで実績とインパクトを残し続けた。オリンピック最終予選シリーズは総合3位となり、辿り着いたパリの舞台だった。
「オリンピックジャーニーでいろんなことを学んだんです。ここを目指す過程ですごく成長できました」
だが、最後のラウンドはパワームーブしかしなかった。世界最高のパワームーバーとしてのすべてを出し尽くした。
「勝つつもりはないというか、本当にただ自分を見せたい。その一心でやっていました」
「技術」「表現」「独創性」「出来栄え」「音楽性」の5項目で評価されるダンススポーツとしてのブレイキン。「技術」では9人のジャッジ全員が、「音楽性」でも5人がHIRO10を支持したものの、トータルで見れば2ラウンド目も3-6でVICTORが取った。それは競技の性質上、致し方のないところもあった。
戦い終えたHIRO10がMCに肩を抱かれて泣いていたのは悔しかったからではない。だが、観客はブーイングで判定に異議を唱えていた。「まあ、待て待て」とMCが制するが一向に収まらない。それはいかにHIRO10のムーブが観客の心を掴んだかの証だった。ジャッジに対するそこまで激しい反応は、2日間のブレイキン競技を通じてこのバトルだけだったからだ。
収まらないブーイングの中、MCがステージ中央でHIRO10の手を高々とあげた。HIRO10も両手でピースを作ると、すべてが大歓声に変わった。DJはHIRO10を送り出すために再びターンテーブルを回して音楽を流し始めた。ジャッジも拍手を送った。両手を突き上げ、観客とハイタッチを交わしてステージから去るHIRO10。そこにいた全員の心がひとつになったようなエモーショナルな空間が広がっていた。
「最初はもう悲しくて…」
「人生おもしれぇ!ってことですね」
競技がすべて終わった後、ミックスゾーンでオリンピックを振り返るHIRO10はそう言った。