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「吉田輝星以来の甲子園」金足農、初戦で去る…154球投げた2年生エース、吉田弟・大輝(17歳)の「将来を考えての交代」は妥当だったのか?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byShigeki Yamamoto
posted2024/08/11 06:01
最速146kmの直球を軸に力投した吉田大輝だったが……
それは吉田大の「あの世代に刺激を受けてきた。マウンドを譲りたくない」という言葉に集約されているだろう。憧れの投手の力投は目指すところなのだ。もっとも、球児が少しでも長くマウンドで投げたいと思うのは当然だろう。どんな投手に聞いても、どんな時代でも「甲子園で優勝するために練習をしてきた」と球児は語るもので、なかなか佐々木朗希のようにはなれないのが彼らの思考のデフォルトだ。
だとしたら、できることは指導者がストップをかけることではないか。
輝星の同期のコーチの思い
吉田輝星と同期で、現在金足農でコーチを務める高橋佑輔に尋ねた。
当時の吉田輝の力投を、今どう思うのか。そして、今後はどう考えるのか。
「当時は吉田しか抑えられるピッチャーはいなかったんで、吉田が投げるのが自分たちとして当たり前だった。当時は大きい話になりましたけど、でも、あれがうちらのチームだったと思う。あのチームがあったから、今日は他の投手が投げましたし、新チームでも、他にピッチャーはまだいるので、来年甲子園に来るときは、多彩な投手陣が上がってこられるようにまた別のチームを見せたいなと思う」
しっかりとした返答に少し安堵したが、「投げたがる投手の気持ちはどうするのか?」と問うと、高橋はまた別な見解も口にする。
「大輝は兄に追いつけ追い越せでやってるので、一人で投げ抜きたいっていうのはあると思う。エースが一人で投げ切らないといけない試合はあると思うので、継投に頼らず一人で投げ抜く力、精神力を養ってほしいなと思います。その後に他のピッチャー陣でもり立てられればなと思います」
どれだけの球数が「多い」と感じるかは人それぞれだ。今のルールでは吉田輝星のような大会総投球数に達することはないだろうが、1試合での投球数はまだまだ議論する余地を残している。
150球は投げすぎではないのか。個人的にはそう思う。ただ、球数の多寡以前に、マウンドに立ち続けた吉田輝星の姿が美談だという認識がまだまだ残る金足農の周辺環境で、吉田大輝を守ることはできるのだろうか。金足農の戦いは今回も、ロマンと表裏一体の問題意識を残していったような気がする。