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「金メダル最有力候補」須崎優衣25歳まさかの初戦敗退…いったいなぜ?「あれ、展開が動かない…」レスリング会場で記者が感じた“ある異変”
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byGetty Images
posted2024/08/07 17:35
金メダルの大本命としてパリ五輪を迎えたレスリング女子50kg級の須崎優衣。1回戦でインドのビネシュ・フォガトに敗れ、五輪連覇の夢はついえた
過去に両者の対戦はないが、筆者は須崎の“秒殺”を予想していた。というのも、ビネシュは直近の国際大会でも決勝で敗れており、とても現在の須崎に太刀打ちできる相手だとは思えなかったからだ。
“ラスト30秒に全てをかけた”ビネシュの戦略
名前がアナウンスされ、須崎が入場ゲートから登場すると、超満員の観客で膨れ上がった場内は大歓声で金メダリストを迎え入れた。日本のファンも、海外のファンも、誰もが“お目当ての選手のひとり”として、須崎の圧倒的な活躍を期待しているように思えた。
異変に気付いたのは第1ピリオド開始から少し経ってからだった。須崎が腕を取りにいっても、ビネシュは回りながら切る。攻防はその繰り返しで、“次の展開”には至らない。普段の須崎であれば現状を打開すべく別の手立てを講じたはずだが、この日はいつもに比べて足が動いていないように見えた。
ビネシュは消極的という理由で2度もアクティビティタイムを宣告され、須崎に計2点を与えることになるが、いまにして思えば「覚悟のうえでの2失点」だったように思えてならない。失点を必要最小限に留め、ラスト30秒のスパートに全てをかける。29歳のインド人レスラーはそんな作戦を立てていた。
案の定、残り時間が10秒を切ったところで、ビネシュは一気にタックルを仕掛け、須崎を潰して2点を奪う。スコア上は2対2とイーブンながら、ルールではビッグポイントを奪った方が勝者となる。
須崎陣営はチャレンジ(異議申し立て)を行うが、裁定が覆ることはなかった。チャレンジ失敗によりビネシュにさらに1点が追加され、金メダル最有力候補が初戦敗退という衝撃的な結末となった。
唖然としていたのは筆者だけではない。ミックスゾーンに集まった周囲の記者たちも、「いったいなぜ須崎は負けたのか?」という答え合わせに躍起になっていた。そして1秒でも早く須崎の肉声を欲していた。