当時、我々記者は、決まり文句のように東京五輪が決定したことについて中高生にコメントを求めていたが、高橋は「東京オリンピックに出たい」ときっぱりと言い切っていた。

「本当に東京オリンピックに出たかったとは思います。やっぱり周りの知名度もそうですし、スポーツをしている人間にとって最高峰の舞台がオリンピックだと思うので。

　ただ、『出たい』とか『目指しています』と言っていても、当時はそこに深い意味やこだわりはあんまりなかったのかなって思います。東京でオリンピック開催が決まり、世の中はお祝いムードで、自分の目標もそうなるのが自然なことでしたが、（7年後を）想像はできていなかった。そこがしっかり思い描けていて、全ての生活を陸上に捧げられたら、もしかしたらオリンピックに出られるポテンシャルはあったんじゃないかなと思うんですけど……」

©Satoshi Wada

　その7年後にどんな未来が待ち受けているのか、この時の高橋少女は全く想像もつかなかっただろう。

　中学卒業後の進路はいくつか選択肢があった。

「当時の兵庫県は須磨学園が西脇工業高よりも強かったんですけど、見学した時の部活の雰囲気が決定打でした。こっちの空気感が自分には合うのかな、と思いました」

　同じ県内とはいえ生まれ育った姫路からは遠かったが、強豪の西脇工業高に進み、下宿生活を送りながら競技に打ち込んだ。

　強豪校にありがちな上意下達ではなく、「長距離校ではなかなか珍しい寄り添い型だったのかなと思います」と言うように、顧問の前田泰秀先生は高橋の意見に耳を傾けつつ親身に指導に当たってくれたという。

　そして、高橋の快進撃は高校でも続く。

1年生でインターハイ王者…日本代表にも

　　インターハイでは1年生にして800mで優勝。中国・南京で開催されたユースオリンピック（15歳から18歳までの世界大会）では8位入賞と、初めての国際舞台でも結果を残した。

高1で出場したユースオリンピックでは800ｍで8位入賞　©AFLO

　ただ、本人の胸中は快進撃には程遠かった。

「今やから言えるんですけど、正直、高校1年生の時に勝てたのは、中学からの貯金やったのかなと思います。どんどん年齢を重ねていくにつれて、その貯金が少しずつ使われていく感覚がありました」

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