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「娘の結婚式を想像して、もう泣いてます」男子バレー高橋健太郎を支えた家族が願う“金メダル”よりも最高の結末「つらい時を見てきたので…」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKentaro's Family
posted2024/07/31 11:04
試合後、会場に駆けつけた4歳と2歳の娘を抱き上げる高橋健太郎(29歳)。コートで見せる表情とはまた違う笑顔だ
結果的に健太郎は今季からプロ選手として歩むことを決めた。きっかけはやはり、妻のひと言だった。
「内心ではプロになりたいから『俺はプロでもやっていけると思う』と言っているのに、家が、家族が、と同じ話を繰り返す。だから『そんなに言うならやって見せてよ。私も働いているし、大丈夫だから』って(笑)。そうしたら健太郎も『確かに。俺、何もしてないや』ってプロになることを決めた。いいタイミングだったと思います」
バレーボールで生きると覚悟を決め、2023年には日本代表に本格復帰。パリ五輪出場を決めた昨年10月の五輪予選スロベニア戦では「自分をつくってくれた師匠」と公言する、昨年3月に逝去した元日本代表セッター・藤井直伸のユニフォームを掲げて号泣した。
Vリーグでも7年間在籍し、藤井と共にプレーした東レアローズを退団。プロ選手としてジェイテクトSTINGS愛知への移籍を発表した。日本代表選手としてもネーションズリーグで準優勝という結果を残し、そして、パリ五輪出場メンバーに選出された。
家族の支えで、初のオリンピックへ
伊織さんがその知らせを受けたのは、子どもたちを寝かしつけた夜だった。不在着信が入っていたのを確認し、「何だった?」とメッセージを送ると「決まったよ」と返信が来た。すぐに電話をして「よかったね」と告げた。
「山形の母は泣いていたそうで、私ももっと込み上げると思っていたんです。でも実際に『決まった』と聞いて、『あーよかった』とホッとした。オリンピアンになれたということよりも、努力が実ったことが嬉しかった。私は“自分のために”と願って、彼もそう思ってきたけれど、いざ代表が決まったら『自分のためだけじゃここまで頑張れなかった。家族や子どもたちがモチベーションだった』と言われたんです。もう娘たちもわかる年齢になっているので、自分の姿を見せたい、という思いもあるんでしょうね」
4歳と2歳。2人の娘たちもパパの仕事がバレーボール選手で、ニュースでオリンピックの情報が流れると、パパが出る大会だと認識している。ネーションズリーグのファイナルを終え、ポーランドから帰国した際は、娘たちが「パパおかえり おめでとう」と記した似顔絵を描いた特製ボードを持って駅で出迎えてくれた。健太郎は人目を憚らず泣いていた、と伊織さんが笑いながら回想する。
「この前も家族で焼肉に行った時、健太郎が芸人さんがYouTubeで自分の娘の結婚式の話をしていたと喋り出したんですけど、そしたら急に、お肉を焼きながら泣いているんです。『どうしたの?』って言ったら、どうやら娘の結婚式を想像したみたいで……(笑)。もう、娘のことになるとダメですね」