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「マサヒロ来ないね…」男子バレー“絶体絶命の夜”に一体何が? 黒星スタートの今こそ生かされる経験「あの負けが僕らをひとつにした」4人の証言
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byGetty Images、Naoya Sanuki/JMPA、Kaoru Watanabe/JMPA
posted2024/07/30 11:02
(左から)高橋健太郎、関田誠大、山内晶大、石川祐希
翌日は試合がなかったため、山内は西田とともに関田を大浴場に連れ出した。「気負いすぎないほうがいいよ」といった言葉をかけ、他愛のない会話で関田の心を解きほぐしていった。
全体でもミーティングを行い、選手たちは互いに胸の内をさらけ出した。
第3戦のチュニジア戦の前、関田は吹っ切れた表情で「もう、いい意味でテキトーにやるわ」と山内に宣言した。
「絶対そのほうがいいよ。勝たないといけないと思いすぎるとガチガチになっちゃう。遊び心があるぐらいのほうがいいよ」と山内は背中を押した。
その日、関田は「まず自分らしさを出していこう」と積極的にクイックを使い、本来の正確性と大胆さを取り戻していく。日本は3-0で勝利した。
ここから日本の逆襲が始まった。チュニジア戦以降、トルコ、セルビア、スロベニアを相手に1セットも落とすことなく4連勝。怒涛の復活劇で一気にパリ五輪出場権を勝ち取ったのだ。
「負けが僕たちを一つにした」
大会後、石川に、エジプト戦の夜、なぜ関田に直接声をかけなかったのか聞いた。
「僕が言っても、響かないなと思ったので。あの時は(大会前の腰の怪我の影響で)僕の調子が悪く、いつもなら決めているところで僕が決められなくて、関田さんを困らせて、というだけの話だと僕は思っていたので。それなら関田さんと一番コミュニケーションを取っている山内さんや健太郎さんに話してもらったほうがいいなと思って」
今年になって関田にインタビューした際、当時の石川の葛藤を伝えると、苦笑した。
「ま、話しかけづらいなーと思っているんだろうなとは思いましたけど……。点を決められないからって、アタッカーはそんなこと気にしないでしょと思っていましたが、気を遣わせちゃっていたんですね。
そんな遠慮いらないんですけどね。点を決められない時もあるし、僕だって全然ダメな時もあるので、それはお互い様。チームメイトにそういうのはいらないですね。それに、もう何年も一緒にやってるでしょーって(笑)」
2人は石川が中央大に入学した時からコンビを組んできた仲だ。
「まあそういう気を遣わせてる自分が悪いんですけどね。もうちょっと試合中に発想を広げて、トス回しをいろいろ変えたり、そういう選択肢が多くあれば、もう少し彼に気を遣わせずにチームを勝たせられたところはあるので、そこは僕の反省点です。いろいろありますよね、バレーボールは、人間関係なんで」
パリ五輪前に行われた囲み取材で、改めて昨年のエジプト戦について聞かれた関田は言った。
「負けが僕たちを一つにした。ああいう場面は絶対オリンピックでも出てくると思う。そういう場面で、あの時感じたこと、学んだことを生かせたらなと思います」