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「足は引っ張らないでくれと…」男子バレー小野寺太志の母が語る、素人同然だった息子がオリンピック選手になった日「祐希の言葉が嬉しくて」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2024/07/29 17:05
2度目のオリンピック出場を果たした小野寺太志(28歳)。202cmの高さがありながら、器用さを併せ持つミドルブロッカーだ
高校から大学、U18からU20と経験を着々と重ねていく中で、太志は確かな進化を遂げていった。
全国大会の出場は高1時のみだったが、当時高3の2013年9月に東京五輪開催が決定したことで「東京五輪世代の注目選手」として関心を集めるようになった。すると戦う舞台は、瞬く間に世界へと一気に広がり、東海大学進学後の2014年に日本代表初選出。2017年にはワールドリーグ、シニア代表デビューを飾った。当時はミドルブロッカーの層が厚かったこともあり、2mの身長と器用さを生かすためにもアウトサイドヒッターでのプレーにも挑戦した。
日本代表の主力に定着したのは、2019年ワールドカップのころ。当時コーチだったフィリップ・ブラン監督の指導により、ミドルブロッカーとしての才能が開花。高橋、山内晶大、李博といったライバルの中でも最も攻守両面のバランスに優れると評価され、2021年から主将を務めた石川が不在時には代理を任されるほど、チームにとって欠かせない存在になった。
「決まったよ」オリンピック出場を決めた息子
同年6月、小野寺は東京五輪の12人に選ばれた。ネーションズリーグが行われていたイタリアから電話が来た時のことを、いく子さんは今でもはっきりと覚えている。
「『決まったよ』と言ってきたので『そう、よかったね』と。まだ単身赴任中だったので、父ちゃんに電話した?と聞いたら、先に電話して『おめでとう、って言ってもらった』と嬉しそうでした。親としてはどれだけ『太志なら選ばれるよ』と言ってもらっても、最後に決まるまでは不安しかないんですよ。息子が活躍してくれればそれに越したことはないですけど、それ以上に太志は目立たなくてもいいから、足は引っ張らないでくれ、って、いつもドキドキしながら見ているんです(笑)」
東京五輪は無観客開催だったため、息子の雄姿を現地で見ることはできなかった。パリは現地を訪れる予定だが、楽しみな一方で「まだ想像できない」と笑う。
「どんな感情になるんだろう。きっと感動しますよね。オリンピックを決めた予選も、もう、ハンパなかったですから。エジプトに負けた時は『大丈夫よ、今から全部勝てばいいんだから』って言っていたんですけど、全然関係ない私が、ごはんも食べられなくなっちゃって(笑)。やっぱり弱いじゃん、とか、いろんなことを言う人がいる中でも最後に引っくり返して、あんな劇的な形でオリンピックを決めた。この子たち、みんなを惹きつけるためにわざとやっている? と思っちゃうぐらい見ているだけで興奮して、感動しました」