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なぜ田中希実(24歳)は世界の舞台で「勝負の場」に残れるのか? コーチを務める父が世界陸上で感じた“日本最速ランナー”「成長の兆し」
posted2024/08/02 06:02
text by
田中健智Kenji Tanaka
photograph by
Getty Images
ついに開幕を迎えたパリオリンピック。陸上界からは女子中長距離で目覚ましい活躍を見せる24歳の田中希実選手に注目が集まる。東京オリンピックでは1500mで日本史上初の入賞を果たすなど群を抜く実績を誇るが、そのコーチを務めるのが実父の健智さんだ。娘と二人三脚で走り続けてきた健智さんの著書『共闘<セオリーを覆す父と娘のコーチング論>』(ベースボール・マガジン社)に描かれた、親子の知られざる苦悩とは。《全3回の第3回/最初から読む》
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スタッフの気持ちも汲めずに、傷つけ合うだけなら、いったんゼロに戻して、彼女自らチームを作り直すべきなのでは――。私自身、彼女のために「良かれ」と思ってチームを作ってきたが、それが彼女の望むものに答えられないのなら、コーチの独りよがりになってしまう。このままの形を続けていても、彼女のためにならないのなら、本格的に解散して、別のコーチを探してもらうほうが良いのかもしれない。そんな思いから、口をついた一言だった。
娘・希実とぶつかると「突き放してしまう」
これは私の悪いクセなのだが、希実とぶつかった時には寄り添うというより、どうしてもいったんは突き放してしまう。
お互いに頑固な性格で、どちらかが先に折れることはほとんどできないのだ。本当はすぐにフォローを入れるべきなのかもしれないが、それは本人の甘えにもなるし、私自身も冷静になる時間を持つ必要がある。
ブダペストでは「解散」という問題提起をして、私も、希実も今後のことを考える時間を作りたかった。
二人きりで冷静に話し合う時間を持てたのは、衝突した翌日、1500mの決勝を観戦した帰り道だった。会場から宿舎に戻るバスの車中、私たち以外の乗客が降りた後、しんと静まる中で「今日のレースを見てどうだった?」と私から切り出した。