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「あの左ボディが分かれ目だった」百戦錬磨の井岡一翔はなぜ敗れたのか…“涙の統一戦”の全貌 「今後はすべて白紙」35歳レジェンドの決断は? 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2024/07/09 17:10

「あの左ボディが分かれ目だった」百戦錬磨の井岡一翔はなぜ敗れたのか…“涙の統一戦”の全貌 「今後はすべて白紙」35歳レジェンドの決断は?<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

7月7日、フェルナンド・マルティネスとの統一戦に敗れ王座を失った井岡一翔。ボディでダメージを与えるもタフな相手を崩し切ることはできなかった

 井岡は自分のファイトに疑問を感じていなかった。一発で倒すタイプではない王者にとって「削れてる」という感覚はイコール「手ごたえ」である。削れていれば、後半になればなるほど相手は落ちるはずだ。ところがマルティネスはいつまでたっても落ちてこない。攻防分離で「防」のときに休むのがうまく、井岡の左ボディを断続的に食らいながらも失速しなかったところは、心身ともにタフな証だった。

 マルティネスが右の打ち下ろし、左フック、左右のアッパーで攻め、休んだ瞬間に井岡が左ボディブローを軸に激しく反撃する。チャンピオン同士が近距離で意地をぶつけ合う。ただし、ジャッジの支持を得続けたのはマルティネスだった。こうして井岡は2018年大みそかのドニー・ニエテス(フィリピン)戦以来となる黒星を突きつけられた。敗戦の弁は自らを納得させるようでもあった。

「応援していただいた方たちに、期待していただいた方たちに、結果で恩返ししたかったというのが一番ありますけど、自分は自分の生き方、戦い方を貫きたかったし、今回は特にそれを見せたかった。自分自身、貫いたと思うので、自分たちチームとしてやったことには満足しています」

「今回が最後かも」「40歳までやりたい」井岡の決断は…

 手痛い敗戦だ。

 2018年のカムバック以降、この階級のビッグネーム、ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)を追いかけ続け、それは叶わなかったものの今回の2団体統一戦に結びつけた。勝てばさらなるビッグマッチへの道が拓きかけていた。1週間前にエストラーダを下した“バム”ことジェシー・ロドリゲス(米)との3団体統一戦に勝てば、求め続けてきた“世界的な評価”を得られるはずだった。「すべて白紙になった。今後のことは考えられない」。短いフレーズに現状のすべてが詰まっていた。

 35歳になった井岡だが、もともと圧倒的なパワーやスピードを売りにしているタイプではなく、急激な衰えは感じさせない。スーパーフライ級で再びチャンスを求めるとなれば、「ファイトマネー次第で再戦に応じる」と話したマルティネスとのリマッチ、あるいは常に雪辱を口にしてきた田中との再戦という選択肢も、田中がベルト以上にリベンジにこだわるのであれば、可能性はあるだろう。

 いずれにしてもすべては本人の情熱次第だ。井岡の口から「今回が最後になるかもしれない」と聞いたことがある。一方で、「40歳になってもできるのであればやりたい」としみじみ話していたことも思い出す。世界タイトルマッチ出場は日本歴代最多の26試合。誇り高きレジェンドの決断は、それがどちらに転んでもニュースである。

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