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「あの左ボディが分かれ目だった」百戦錬磨の井岡一翔はなぜ敗れたのか…“涙の統一戦”の全貌 「今後はすべて白紙」35歳レジェンドの決断は?

posted2024/07/09 17:10

 
「あの左ボディが分かれ目だった」百戦錬磨の井岡一翔はなぜ敗れたのか…“涙の統一戦”の全貌 「今後はすべて白紙」35歳レジェンドの決断は?<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

7月7日、フェルナンド・マルティネスとの統一戦に敗れ王座を失った井岡一翔。ボディでダメージを与えるもタフな相手を崩し切ることはできなかった

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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Hiroaki Yamaguchi

 スーパーフライ級のWBA・IBF王座統一戦が7月7日、東京・両国国技館で行われ、WBA王者の井岡一翔(志成)はIBF王者のフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)に0-3の判定で敗れ、王座を失った。有利と伝えられた一戦で、百戦錬磨の井岡はなぜ敗れたのか。そして岐路に立たされた井岡は今後、どのような道を選択するのだろうか――。

試合後には涙も…判定への不満は一切口にせず

 読み上げられたスコアは116-112、117-111、120-108。接戦だったという見方をした関係者もいる中、試合を終えて報道陣の前に姿を現わした井岡は採点への不満は一切口にせず、次のように語った。

「1ラウンド、1ラウンド、全身全霊で戦った。判定までは考えず、倒すつもりで戦っていたので、その中で12ラウンドを戦って、勝ったか、負けたか、正直感覚としては分からなかった。1ラウンド、1ラウンド倒す気で戦った結果という感じでした」

 屈指の技巧派と認知される井岡が全身全霊で倒しにいった12ラウンド。勝負の綾はどこにあったのだろうか。試合を終え、勝者も、敗者も、たくさんの涙を流した一戦を、まずは振り返りたい。

井岡が再構築した「前で作るボクシング」

 ファイター型のマルティネスを迎えるにあたり、井岡は試合前から「相手の距離で戦う」と打撃戦も辞さないファイトを強調していた。相手の強みをつぶしてしまえばより有利に戦える、という見立てに筋は通る。そして前回、昨年大みそかのホスベル・ペレス(ベネズエラ)戦で6試合ぶりのKO勝利を収めていたことが自信になっていた。

 その前のKO勝利は2020年大みそかの田中恒成(畑中)戦だった。井岡は無敗のまま4階級制覇を狙う挑戦者を圧倒、8回TKO勝ちで田中の野望を打ち砕いた。そして田中戦を機にKO勝利から遠ざかった。この試合の出来があまりに良かったがゆえに、「あれで勘違いしたかもしれない」という言葉は興味深い。

 積極的に前に出てくる田中に対し、井岡は「後ろで作るボクシング」を徹底してはめこんだ。後ろとは、相手を誘い込み、ミスを誘発させるスタイルだ。本人は「テクニックが先行しすぎるようになった」とも表現した。2022年大みそかのジョシュア・フランコ(米)戦をドローで終えた井岡は自らの陥っている状態に気がつき、攻撃的に仕掛ける「前で作るボクシング」を再構築した。結果となって表われたのがペレス戦であり、だからこそマルティネスを相手にしても、そのスタイルが通用すると考えたのだ。

【次ページ】 いきなり訪れた山場「仕留めにいったんですけど…」

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