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田中希実「圧勝劇」の裏側で…次世代エース候補たちの明暗 ドルーリー朱瑛里(16歳)と澤田結弥(18歳)2人の“10代ランナー”が向かう先
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byYuki Suenaga
posted2024/06/29 17:02
今回の日本選手権で7位に入ったドルーリー朱瑛里(左)と、予選落ちに終わった澤田結弥。明暗分かれた10代ランナーの2人だが、今後の躍進に期待だ
高校から本格的に陸上競技をはじめた澤田は、経験が浅い分、良くも悪くも怖さなく攻めのレースを展開できることが多かった。飛躍のきっかけとなったU-20世界選手権での入賞も、とにかく先頭のランナーに食らいつき、粘り切ってゴールしたレースだった。
翻って、今大会の澤田は急成長の中で積み重ねた経験値がマイナスに発露したようにも見えた。
「今回は人の動きばっかり気にしてしまって…『田中さんはどこにいるのかな』とか余計なことを考えて、自分の走りに集中できていなかった気がします。もっと“自分のレース”ができるようにしたいです」
本人も自身の走りをそう振り返る。高いレベルで多くのレースを経験することで、展開をある程度想定できるようになった。マークすべき選手も明確だった。様々なことを考えられる余地が増えたからこそ、かえって悩んでしまう要素が増えたのかもしれない。
ただ、もちろんそれ自体は決して悪いことではない。
今回は良い方に転ばなかったものの、積み重ねた経験を噛み砕き、レースに活かすことができれば、きっとこれまで以上の結果にもつながることだろう。不甲斐ない結果に対して涙を流せる心の強さも、きっとプラスに働くはずだ。
澤田は8月に渡米し、異国の新天地でトレーニングに励むことになる。慣れない環境、語学面のハードルなど、大変なことも多いはず。それでも、世界トップの大学で学ぶ稀有な体験は、今後の陸上生活に間違いなく活きてくる。
「独走・田中希実」の背中をどこまで追えるのか
現在、日本の女子中距離界は田中希実がひとり大きく前を走っている状況でもある。そんな中、今後はドルーリーや澤田といった才能のある若手選手たちが、その背中をどこまで追えるかが中距離界全体のレベルアップにも繋がって来る。
2人はともに高校で公立の進学校を進路に選び、スポーツの面ではある意味、制限された環境下でも着実に力を伸ばしている。そんな独自の道を選び、確固たる決意を持った若手ランナーたちが今後どんな成長曲線を見せてくれるのか。
パリ五輪の選手選考が話題の日本選手権ではあったが、来年の東京世界陸上や2028年のロス五輪まで含めて、未来も楽しみにしたい大会だった。