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渋野日向子(25歳)メンタル回復は“魔法のステッキ”のおかげ? ライバルも心配した苦悩の日々…「あれがピナ姉」渋野らしさ復活の舞台ウラ
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byUSA TODAY Sports/Reuters/AFLO
posted2024/06/13 06:00
全米女子オープンという大舞台で復調の兆しを見せた渋野日向子(25歳)
しかしながら、ゴルフクラブは必ずしも変えれば好結果が出る魔法のステッキのようなものではない。
「もちろんクラブもいろいろありますけど……自分に自信を取り戻せるきっかけになった」と渋野は言う。
「予選通過を目標にしていると、下ばっかり見ちゃうのがすごく自分的には苦しい。でも、今はそこを見ている状況ではある」
「スコアにならないと意味がない。切り替えて、頑張ります」
「自信が持てない日々は続くと思うんですけど、準備や試行錯誤をしながら、続けるものは続けたり、変えていくものは変えたりしたい」
低迷していたシーズン序盤戦、こんな言葉を並べてばかりいた。顔を上げたくても上げられない。笑いたくても笑えない。スタート時に胸に膨らませた期待が、ホールを進めるごとに萎んでいく。そんな毎日を過ごしながら、ただ欲しかった確固たる自信。そんな大袈裟なものでなくても、前に進むことができそうな、小さな、小さな希望でよかった。
笹生優花にもあったメンタルの変化
ゴルフはメンタル、だという。
実力者が集まる世界では、それぞれのステージで技術の差はおそらく拮抗していて、ちょっとしたきっかけが状況を変える。快挙も、引き寄せる。
2021年大会以来、2回目の全米女子オープン制覇を成し遂げた笹生優花にも大会の直前に少なからず変化があった。
メジャーの2週前にニュージャージー州で行われた米女子ツアー(渋野が2戦連続予選落ちした試合)で、笹生もまた決勝ラウンド進出を逃した。2日目に開始6ホールで4バーディを奪いながら、その後6ボギーで予選カットラインから転落。父の正和さんは「心の問題でダメだった」と明かす。その終盤、風の読みに関する意見が相棒キャディと食い違い、フラストレーションを溜めていたという。
現在の女子ゴルフを席巻できる高いショット力を持ちながら、突然スコアを崩す様子はこれが初めてではなかった。前回の優勝から3年のあいだ、何度タイトルを手に入れるチャンスがあったことか……。父は諭した。
「平常心でやったほうがいい。お前に欠けているのはそこだけだ。技術は負けていない。考えたほうがいい。自分だってミスをする。キャディだってミスをする。それでイライラするのは、自分に負けている証拠なんだ」
2週後の大一番で、本人は「忍耐強く」というフレーズを初日からずっと口にした。勝負の日曜日の朝。キャディのディラン・バレケット氏は「きょうはどんなことが起こっても、誇りに思う」と言った。笹生は「その言葉に後押しされて」一丸になり、勝った。