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渋野日向子(25歳)メンタル回復は“魔法のステッキ”のおかげ? ライバルも心配した苦悩の日々…「あれがピナ姉」渋野らしさ復活の舞台ウラ
posted2024/06/13 06:00
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
USA TODAY Sports/Reuters/AFLO
聞き覚えのある声援が響き渡る。勝者を讃えるものとは少し違う、激闘を労う温かみのある拍手。負けたその悔しさを癒すように、込み上げてきたのは少しの達成感だった。
最終ホールのグリーンでカップからボールを拾い上げ、向かった先のキャディは涙をこらえていた。それを見て、渋野日向子は思わず笑った。ここ1カ月の例に倣って全米女子オープンでも4日間、バッグを預けたのはもう5年近く転戦生活をともにする女性マネジャーである。
全米女子オープンでの激闘の数日後、そのフィナーレの様子を振り返ってくれた渋野は第一声、「たぶん……目にゴミが入ったんでしょう。ハハッ」と目を細めた。
「もちろんね、自分でも『4日間やりきったな』という感覚も、『びっくりだな』と思うところもあって。良かったなと思っていたら……(マネジャーは)もう半泣きだった。『はえーよ』って」(笑)
実は、渋野がそう話した前日、マネジャー本人に聞くと、「目に砂が入っただけです……」と嘯いていた。苦楽をともにする日々は、想いのみならず、吐きだす言葉すら似たものにするのか……。
なんにせよ、ふたりの内心はそれぞれ一種の安ど感に満ちていたはずだ。
それほどに、渋野は今季序盤戦で苦悩の日々を過ごしていた。
“突然変異”の急浮上
自身にとってシーズン初戦の2月ホンダLPGAタイランド。「69位」の成績は予選落ちのない72人出場の4日間大会で残したものだった。その後、4試合で立て続けに予選落ちし、4月のメジャー・シェブロン選手権で初めて決勝ラウンドに進み50位で終えた。この数字が、全米女子までの最高成績で、全米女子オープン直近の2試合も決勝ラウンドに進めなかった。
突然変異。だからそんなフレーズが多くの人の頭をよぎった。