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天才ランナーから人気コスプレイヤーに…では“第3の人生”は? 34歳になった元日本代表・絹川愛のこれから「いまは手札がたくさんありますから」
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by(L)JIJI PRESS、(R)Tadashi Hosoda
posted2024/06/11 11:03
「天才女子高生ランナー」から男装コスプレイヤーに転身した絹川愛。今年4月に発表の現役復帰と合わせて“第3の人生”はどこへ向かう?
落選やケガは「ただの事象」に過ぎない。それを不幸ととらえるか、飛躍のチャンスととらえるかで未来は違ってくる。
「だからこそ、若い世代には目の前のことに一喜一憂しないで、次に何をするかの方を大事にしてほしいってことを伝えたいです」
話を聞いていると自身の競技復帰よりも、プロデュースする方に意識が傾いているようだが、一方で絹川はこんな思いも口にする。
「もちろん、今からでもオリンピックに行けたら嬉しいし、競技復帰したい気持ちは残ってます」
でも、と言葉を続ける。
「安易にそれを言うのは、この10年真剣にやってきた人たちに申し訳ない気持ちがあるんですね。だからまずは、ランニング教室のコーチをしてみるとか、子どもたちと一緒に走るとか、徐々に足慣らしをしていって、その中で走る感覚がまた研ぎ澄まされていったら良いなと思ってます。今からだと来年の世界選手権には間に合わないので、焦らずにやっていきたいですね」
経験から学んだ「目標を決めない」強さ
多忙な日々だが、走ることは継続してきたという。一人でランニングをする程度だと言うが、現役時代と変わらない細身のスタイルは節制を心がけている証左だろう。もし今、仮に1万mを走ったらどれくらいのタイムが出せるのか。
そう問うと、力強い答えが返ってきた。
「多分、日本選手権に出るくらいまでなら、まずは持っていけると思うんですね。ただ、そこからなんですよ。きっと『すぐにでもレースに出ます』とか、『次の世界選手権を目指します』とか、そう言った方が周り的には盛り上がると思うんですけど、そう言っちゃうと自分が苦しくなるので。私、コスプレに関してはずっと目標を決めずにやってきて、気づいたら企業の公式モデルの話とか、MCのお仕事が来るようになっていたんです。チャンスって自ずと良い流れで来るはずなんですね」
陸上もコスプレも一から始めたことだった。無我夢中で走り続けていたら、向こうの方から目標が近づいてきた。だからこそ、来るべきチャンスをものにするために、今はじっくりと足慣らしをすることが肝要なのだろう。