Number ExBACK NUMBER
高校生で日本代表→社会人でスランプ…陸上「消えた天才」絹川愛(34歳)が“男装コスプレイヤー”になったワケ「いったん違う人間になりたかった」
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by(L)本人提供、(R)JIJI PRESS
posted2024/06/11 11:02
高校生で日本代表に選ばれたものの、社会人では不完全燃焼に終わった絹川愛。引退後の彼女を支えたのは「男装コスプレ」だった
引退後は男装コスプレイヤーに…徐々に人気も
一番落ち込んでいた頃は、よく人気漫画の『弱虫ペダル』を読んで元気をもらっていたという。
「10年くらい陸上をやってきて、いったん違う人間になってみたかったんです。それでコスプレをしてみたんですけど、なんか陸上で培った根性が発揮されるんですかね。裁縫も一から覚えて、型紙から衣装を作ったりしましたね(笑)」
コスプレイヤーとして最初に演じたのは、『弱虫ペダル』の登場人物である真波山岳だった。第二の人生を自由に羽ばたけるように、と願いを込めたのかもしれない。男装にこだわるのは、「男性になりたいのではなく、宝塚歌劇団のように格好良い女性でいたい」から。コスプレは新たに打ち込める天職となった。
ADVERTISEMENT
陸上を辞めた後、絹川は「リアル脱出ゲーム」を企画・運営する会社に入社する。そこでゲームの司会業などを受け持ちながら、コスプレイヤーとしても活動の幅を広げていった。わりとスムーズにセカンドキャリアを歩み出すことができたのは、陸上以外に好きなものを持っていたからだろう。
ちょうどこの頃、絹川が久しぶりに時の人となる。
2018年11月、TBS系の番組『消えた天才』に出演したのだ。若くして競技を引退した、傑出したアスリートに焦点を当てた企画で、絹川は競技人生を振り返り、「マラソンが好き。いつかマラソンを走って、人生のラストランにしたい」と未来への展望を述べた。
だが、この時点ではまだ明かせないこともあったという。
「それがコスプレのことでした。あの頃はまだ日陰の文化で、活動も大っぴらにできなかった。オタクとスポーツって正反対なところがあるので、コスプレをやっています、と言って受け入れてもらう自信がなかったんです。それが今、やっとポップカルチャーになったというか、アニメに続いてコスプレも日本が誇る文化になりつつある。だから新聞でコスプレイヤーであることを告白したんです」
今年4月のスポーツ報知での告白は、満を持してのタイミングだった。
<次回へつづく>