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話題を集めた給水補助、パリ五輪落選後の未来「東京の世界陸上を狙っていけたら」 女子マラソン・加世田梨花(25歳)が自然体で続ける成長 

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小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2024/06/16 11:03

話題を集めた給水補助、パリ五輪落選後の未来「東京の世界陸上を狙っていけたら」 女子マラソン・加世田梨花(25歳)が自然体で続ける成長<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

パリ五輪をあと一歩のところで逃した加世田梨花。その目線は、すでに未来を見据えていた

「5000mなんてマラソンのたかが8分の1じゃないか」

「最初は、今かって思いましたけどね。まだ1年目だし、練習もしたくないようなメンタルの時にすごいことを提案してくるなって。でも、コーチからしたら、ダメなときだからこそ一番キツいことに挑戦して、少しでも成長してほしかったと思うんです。そこで『ダメでも何か変わるきっかけをつかんでくれたら良いから』と言われて、最後にマラソンを1本走ってみるのも悪くないかなって。その頃はひねくれていたので、素直に応じたわけではなかったです(笑)」

 それでもいざマラソンのための練習を始めると、長い距離に自然と体がなじんでいった。未知の距離であった35km走や40km走の練習は、体が悲鳴を上げながらも新鮮な気持ちで走れたという。

 マラソン練習に取り組み始めてからわずか4カ月後、2022年3月の東京マラソンで加世田はマラソンデビューを果たす。

 アキレス腱を痛めた影響で足の状態は万全ではなかったが、自ら出場を志願し、2時間28分29秒のタイムで完走した。

 コーチが期待したように、このレースで何か変わるきっかけを掴めたのだろうか。

「掴めましたね。やっぱりマラソンの練習って過去にないくらい走る距離がすごくて、でもそれをやったことで自信も得られた。シンプルにメンタルが鍛えられました。たとえば、今ならトラックの5000mなんてマラソンのたかが8分の1じゃないかって思える。もちろん走りの質は違うんですけど、キツくても走れるって思えるんです」

「これまでの人生で一番悔しい4位」

 初マラソンから半年後、9月にベルリン・マラソンに挑戦すると、鈴木亜由子らを抑えて日本人トップに輝く。日本歴代10位(当時)に相当する2時間21分55秒の好タイムで7位入賞を果たした。

 その後は、脱水症状に見舞われた昨年の世界陸上(ブダペスト)こそ19位と苦しんだが、10月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)は4位、今年の名古屋ウィメンズマラソンでも4位と、つねに安定した成績を残している。

 とくに世界陸上からわずかひと月半の準備期間で臨んだMGCでは、世界陸上参戦組が男子選手を含めて軒並み成績を落とす中、最終盤まで先頭争いを演じて存在感を示した。

【次ページ】 パリ五輪を逃した先に、加世田が見据える未来

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