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バレーボールPRESSBACK NUMBER
「ここは俺にあげろや!」高橋藍が怒声を浴びせた相棒セッターの選択…敵将も舌を巻いた驚愕プレーとは「あの上から打たれたら打つ手がない」
posted2024/06/07 11:06
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Yohei Osada/AFLO
キャプテンとして「あえて嫌われ役」も
高橋は3年生からキャプテンに任命されていた。「周りに対して怒るのもキャプテンの役目」と言われ続けてきたが、当初は怒るどころか強く言及することも苦手で、できればやりたくなかった。しかし、監督やコーチから叱責されるよりも、同じ仲間から言われたほうがより心に響くのではないかと気づいてからは、あえて嫌われ役も買って出た。
自分はチームのエースであり、キャプテンでもある。ただ点を取るだけでなく、勝つために、本当に強いチームになるために必要なことからは逃げずに「違う」「ダメだ」と示すことが必要だ。中島にぶつけた感情は、チームにとって、まさに必要な“怒り”だった。高橋はその時のことを述懐する。
「僕は健斗のトスで日本一を取りたかったんです。だから、チームの副キャプテンで、チームを勝たせるために絶対必要なセッターであるにもかかわらず、やるべきことをやらないのが許せなかった。健斗はBチームで楽しく上げるだけでいいかもしれないけど、それ以上を求められるAチームのセッターをする選手からしたら、やりづらいし、自分のせいで勝てないと思う。いや、そこは健斗やろ、と僕は思ったので、日本一を目指すなら、それだけの覚悟を見せろ、と。『そんな態度なら、お前なんかいらん』と言いながら、でもやるならやれや、って、Aチームに引っ張り戻した。今思えばだいぶ生意気な高校生ですけど、それぐらい、何が何でも勝ちたかったです」
「怒るのは苦手」と言いつつも、高橋の激しさは、何度も中島を突き動かした。中島には、この一件の他にも高橋に怒られた記憶がある。
BチームからAチームへと引きずり戻され、セッターとエースとして精度を高め、 攻撃のバリエーションを増やすことに注力していた頃。公式戦とは異なる練習試合は自分たちの戦い方を定める場所であり、勝敗以上に自分たちがやりたいバレーボールとは何かを模索する時間に充てたいと中島は考えていた。
対戦相手によって考える要素は変わるが、中島が常に意識していたのは「大事な場面はエースの藍に決めさせる」ということ。だからこそ、来るべき場面に備えて、少しでも打ちやすく、決めやすいように布石を打ち続けた。序盤はミドルを使い、セッター後方のライトからの攻撃も多用し、相手のマークが手薄になったところでレフトの高橋に上げる。
「ここは、俺にあげろや!」
だが、その善かれと思って打った手が、高橋の逆鱗に触れた。